よく晴れた日曜日、少しさびれたE○SOに見慣れた白黒のパンダトレノが入っていく。
と同時にそれまでで立ち話をしていたイツキ達の視線がそれに向かう。
「先輩っ!あれ、拓海のハチロクじゃないっすか?」
「え? あ、ほんとだ。Dの遠征から帰ってきたところかな。まったくあいつも健二の二の舞だな、せっかくの休みにここしか来るところがないなんて」
そう言いつつも、新しい遠征の話を聞く為にいそいそと駆け寄る。
「うお~いっ!たっくみぃ!!お前今度の遠征はどうだ・・・・・えっ!!!!!」
駆け寄ろうとしたイツキは助手席から出てきた姿に慌てて足を止めた。
「た、高橋啓介・・・・っ!!」
予想外の姿に思わず目を瞠る。だがその様子には目もくれず、啓介は車から降りるなり慣れた手つきでポケットからタバコを取り出した。
「拓海、俺ちょっとタバコ吸ってくるわ。」
「あ、はい。」
答えながら自分も車から下りる。と同時に今まで固まっていた二人がはっと我に返り、拓海に詰め寄る。
「おい、拓海どうしたんだよ!前は高橋啓介とツルんで走りに行くことなんてないって言ってたのにさ!」
「そうだぜ!拓海!!一体どこに行くんだよ?!!」
「いえ、急にあの人が『秋名湖が見たい』とか言ってきてですね、」
二人のもの凄い剣幕に押されて、しどろもどろに答える。
「????なんで秋名湖?」
「さぁ、俺にもよく分かないんですけど・・・・」
「高橋啓介と二人で秋名湖・・・・・しかもハチロクで。
そういえば高橋啓介のFDはどうしたんだ?お前がいちいち赤城まで迎えに行ったのか?」
「いえ、あの人のFDは俺ん家にありますよ。」
「「え?」」
「まったく夜にヒトんち来るのはいいんですけど、あのバカでかいロータリーサウンドほんと近所迷惑だから止めてくださいっていつも言ってるのに」
「お、おいちょっと待てよ、ってことは高橋啓介は昨日お前んちにとま、」
「おい、拓海!」
突如背後から上がった呼び声に振り向く。
「あ、はい。どうかしましたか?」
見ると啓介が小さく手招きしていた。
「?何ですか、一体。」
「それがさ・・・・・」
そう言ってトコトコと近づいてきた拓海の耳元にそっと口を近づけると、何やらこそこそと耳打ちした。
その瞬間、
「馬鹿か、アンタは!!!!」
「いってー!」
「「!」」
ぼかりといい音をさせながら啓介の頭に拓海の握りこぶしが炸裂する。
―――――た、高橋啓介を殴った・・・っ!―――――
今でこそクールなイメージの高橋啓介だが、その前は群馬の族の間では神とまで呼ばれかなりやんちゃだったらしい。
一瞬で高橋啓介にボコボコにされる拓海の姿が想像できて、イツキと池谷は真っ青になった。
しかし、その高橋啓介は痛そうに頭をさするだけで、一向に手を上げようとしない。
それどころか、目元が微かに笑っているように見えるのは自分達の気のせいだろうか・・・?
「ほら、ふざけてないで行きますよ!!」
そう言って拓海に手を引かれて、ブーブー言いながらも立つ高橋啓介。
峠で見る姿とは180度違う高橋啓介の姿にその場に居合わせた全員が思わず目を丸くした。
そして、いつもはぼーっとして表情が読めない拓海があんなに大声を出して、しかもその頬が微妙に赤みがかっているのは気のせいだろうか・・・・―――――。
「池谷先輩・・・・俺達見ちゃあいけないもの見てしまったんですかね・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
激しいスキール音を響かせて走り去っていくハチロクの後姿を見ながら、『あぁ、高橋啓介の横で運転するのって緊張するだろうなぁ・・・・』なんて意味のないことが頭をよぎった。
二人を乗せてあぁ、ハチロクよどこに行く・・・・―――――。
初啓拓です。
峠とは違う姿の啓介をガソスタメンバーズに見せたかったというのが始まりでして。
話しの中には池谷とイツキしかいませんが、こっそり店長も見ている予定です。
ちなみに啓介が拓海になんて言ったのかはご想像におまかせします。