++ 永遠に続く思い おまけ ++
7月7日、赤城山。
既に定置となった場所に車を止めると、ケンタはゆっくりと車を降りて空を見上げた。
視線の先には無数の星々が輝いている。
それをじっと数秒見つめた後、慣れた手付きでポケットからタバコを取り出す。
闇の中ふわりと白煙が舞う。
――――― 一人でこんな日に赤城山にいるのには理由がある。
本当ならば今日は啓介さんと一緒にここで走る予定だったのだが、突然「予定が出来た」と言われて中止になったのだ。
かと言ってそんな急に何か他の用事が出来るわけでもなく、なんとなく暇つぶしに気がついたらここに来ていた。
それにしても藤原が来てからはこういうことが多くなったように感じるのは気のせいだろうか?
そう思いながら一人物思いにふけっていると、ふとどこか聞き覚えのあるエンジン音が辺りに響き渡った。
――――――――誰だ?
そう思っている間にも音は段々と近くなってきて、そこに現れた姿にケンタは目を見張った。
――――――――藤原っ?!!
何でここに、と思いつつも思わず傍にあった茂みに隠れる。
幸いにも、暗闇のことと木が邪魔していることもあり、向こうはどうやらこちらには気づいていないようだ。
バタンと扉を開けて藤原が車から降りる。
そうしてさっきの自分と同じように空を見上げると・・・・・・大きく溜息をついた。
ぼーっとして感情の読みとれない普段の姿とは違ったその姿に僅かに目を見張る。
そうしている内にポケットから携帯を取り出すと、藤原はじっとそれを見つめた。
――――――――誰かに電話するのか?
疑問に思いながらじっとその様子を見つめていると、何を思ったのか藤原はパチンとそれを閉じた。だが、なにやら考えこんだ後再び開ける。
そんな動作を時間にすると30分程、回数にすると数十回繰り返した後、覚悟を決めたような顔をすると藤原をようやくボタンを押した。
相手は直ぐに出たようで、なにやら会話らしきものがかすかに聞こえてきたがほとんど聞き取れなく、1、2言話しただけで電話は切れたようだった。
そして静寂が再び辺りを覆う。
何となくこうして隠れて見ているのが後ろめたくなってきて、そろそろ出て行こうかと気が乗らないながらもゆっくりと足を踏み出そうとした瞬間、
突如静まり返った赤城山に響いてきたエンジン音に思わずビクリと体が止まる。
――――――――このエンジン音は・・・・・っ!!!!!
そう思うと同時に視界に見慣れた車体が飛び込んできた。
闇の中でも圧倒的な存在感を放つ、黄色のFD。
―――――――け、啓介さんっ?!!!!
何でここにと目を見張るその間にも車は頂上まで来て、既に止めてあったハチロクの隣にピタリと寄り添うように停車した。
―――――――ど、どーして啓介さんが藤原とっ?!!ということはさっきの電話は啓介さんだったのか?!!
現状についていけずグルグルと頭を巡らしていると突如怒鳴り声のようなものが聞こえてきて、視線を二人に向けた瞬間、
啓介さんが藤原の頭を殴る様子が目に入った。
一瞬ケンカか?!と慌てたが、しかしその後の藤原の様子から見るに、どうやら軽く小突かれただけらしい。
俺にはいつも本気で殴るのに・・・・。
ほんの少しだけ羨ましく思いつつも、今更出て行くことも出来ずにそっと木陰から様子を窺う。
「俺・・・・・・・・・・・・って・・・・・・だったんです。」
闇の中、静かに藤原の声が木霊する。
「そん・・・・たのか?」
「くだらないって!!!!!」
啓介さんの言葉に藤原が大声を上げた瞬間・・・・・・、
―――――――――え・・・・・・・・?
目にした光景に呼吸することさえも忘れて固まる。
―――――――――い、今何が起こったんだ?
訳が分からず立ち尽くしていたが、次の瞬間耳に入ってきた言葉にはっと我に返る。
「ま、実際俺とお前が織姫と彦星みてーになったら俺は泳いででもお前んとこに会いに行くけどな。」
啓介さんのその言葉に夜目にも藤原の頬が赤くなるのが分かった。
そんな藤原の顔はDに入ってから初めて見た。
というか今の言葉ってまるで・・・・・・・・・、しかし次に聞こえて来た藤原の言葉に俺は目を見張った。
「その・・・俺も・・・・・俺も泳いで会いに行きますよ。」
いつもぼーっとしていとらえどころがなく、何が起こっても動じず(というか何も気にしてない)、バトルにはよく時間ギリギリに来るわ、
誰からの挑戦にもなかなか自分から応じないような、
あの藤原が啓介さんに会うために自分から泳いでいくとは・・・・・。
―――――――― 一体どうなっているんだ・・・・・。
驚きもショックも通りこして、ただ呆然と固まる。
そうしている内に、気がつくと二人はじゃれあうように何か言い合いながら赤城の山の中へ消えていった。
どこか遠くで二人の声が響く中、ただ一人山中に立ち尽くす。
あの二人が以前に比べて仲良くなっていたというのは不本意ながら感じていた。
だけど、これは・・・・・・・・・・・予想外だ。
ふらふらと足をよろめかせながらも「ここからなるべく早く立ち去らねば」という一念で、
何とか車に乗り込むとなるべく静かにエンジンを回す。
脳裏に浮かぶのは至近距離で見詰め合う二人の姿、そして・・・・・・・・、
無意識にじんわりと浮かんできた涙を拳で拭いながら何かをふっきるように強くアクセルを踏み込むと、ケンタはふと視線を窓の外に映る星に向けた。
空には先程と何も変わらずキラキラと星が輝いている。
――――――――七夕の奇跡なんて信じたことは一度もなかったけど・・・・・、
だからと言ってこれはないだろ、と呟くとケンタは小さく息を吸って、
「織姫と彦星のバカヤロー!!!!!」
涙で霞むフロントガラスを見つめながら、誰にともなく叫んだ。
「ん?今何か聞こえなかったか?」
「?いえ、別に。」
今日も赤城の山に声が途切れることはない。
おわり
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