++ Please see me ++
既に行き着けとなったファミレスのソファに向かい合いながら啓介と二人座っていると、
カランという音とともに入ってきた姿に拓海は一瞬視線を奪われた。
肩まで伸ばされたゆるくウェーブのかかった髪。
すらっと伸びた手足。
どこからどう見てもそれは美人という言葉が当てはまるような人物で・・・・・、
「すごいキレイな人ですね・・・・・」
思わずポツリとそんな言葉が出ていた。
「んだよそれ。」
そんな拓海の言葉に今まで楽しそうに話していた啓介の顔が一変して険しいものになる。
「あ、いえ、その・・・・」
「俺といるときに他の女のこと気にするなよ!」
「・・・・・・・・・すみません。」
しまったと思いすぐに謝るが、余計にそれが啓介の怒りを煽ったようで切れ長の目がさらに細くなる。
「あーそうかよ!つまりお前は俺といるより他の女といた方がいいってことなんだな?!!
気づいてないと思ってんのか知らねーけど、さっきから周りばっか見やがって。ふざけんなよ!!!」
バンと机を叩きそう言い残すと、伝票を持ってそのまま席を立つ。
―――――――――やってしまった・・・・・
啓介の姿が完全に店内から消えて、一人になってしまった座席に深く腰掛けると、拓海ははぁっと溜息を吐いた。
こんな風に怒らせたかったわけじゃないのに、どうしてこうなってしまうのか。
前は周りなんか全く気にならなかったのに、あの人と付き合うようになってから回りを気にしない時なんてない。
いつか自分なんかよりもずっときれいで魅力的な人が現れて「お前なんかいらない」って言われるのが怖くて・・・・・・・・・・。
今も本当は、
――――――――ただ否定して欲しかった。
誰かと比べることでしか自分の価値なんて分からない。
―――――――――バカか俺は・・・・・・。
自嘲気味に小さく笑うと、拓海はそっと席を立った。
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―――――――――やっちまった・・・・・
家に帰るなりリビングのソファに寝転がると、啓介は頭を抱えて唸った。
「何をしているんだ?」
「・・・・・・アニキっ!!」
頭上から降ってきた声に顔を覆っていた手を外すと、そこに立っていた姿に啓介はガバっとソファから起き上がった。
「で、今度はどうしたんだ?」
目の前に用意されたアイスコーヒーを片手にそう切り出すと、
どこかしょんぼりとした表情を浮かべながら啓介は今日のことを話し始めた。
「・・・・・・・・・・ってことなんだ。」
「そうか。」
一通りの話を聞き終えると涼介はただ何も言わずに静かに頷いた。
「俺って藤原に信用されてねぇのかな・・・・・この前二人で近所の祭に行った帰りもさ『来年もまた来よーな』
って俺が言ったらあいつ予想外だったみたいな顔して目ぱちくりさせてんの」
まぁあれはあれで可愛かったけどさ、と最後に付け加えられた弟の言葉に顔には出さないが内心思わず頭を抱える。
「でも藤原にとっては来年も俺と一緒にいることが予想外なことなのかと思うと・・・・・正直、へこむ。」
「・・・・・・・・まぁ藤原はお前と違って真面目だからな。考えすぎるんだろう。」
「どーいうことだよ、アニキ。」
「そのまんまの意味さ。それにお前のことだから頭では分かってなくても、
体ではちゃんと分かってるんじゃないのか?お前が本当に怒っているのはそんなことじゃないんだろ?」
「・・・・・・・・・よくわかんねー。」
「まぁお前はそーいうタイプだからな。じっくり考えろ。」
ニヤリと口唇を吊り上げて笑う兄からブスっとした表情で顔をそむける。
「いーよな、アニキは。藤原のこと何でも分かって。」
「お前がいるから分かるんだよ。」
「?」
あの感情を滅多に表に出さない藤原が、啓介の前でだけはコロコロと表情を変えていることにどうして本人だけが気づかないのか。
「まったく。」
「????それってどういうことなんだよ、アニキ。」
「さぁな。それよりその藤原のことなら何でも分かる俺からすると今頃は藤原はきっともの凄く落ち込んでいる頃だと思うんだが、」
「!」
その言葉にさあっと顔を青くさせると何も言わずにバタバタと玄関へ向かう。
そんな姿を面白そうに見ながらも、
―――――――――それにしてもこの相談癖は何とかならないものかな・・・・
と、わずかに頭を抱えた。
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藤原豆腐店と書かれた店の前まで来ると、荒っぽく車を止め、何事かと驚いた様子で目を見張る
文太に軽く挨拶をすると、そのまま家の中に入り慣れた足取りで拓海の部屋の前まで来ると、バンっと勢いよく開けた扉の先の光景に啓介は一瞬息を呑んだ。
「け・・・すけさ・・・・ん?」
なんでここに、と驚きつつも僅かに瞼を濡らしながら真っ赤に染まった目で啓介のことを見つめる拓海。
「あーもう!!!アニキの言った通りにしてんじゃねぇよ!!!!」
「???」
訳が分からないといった様子で目を見張る拓海の傍に何も言わずにただ近づくと、力任せにその体をぎゅっと抱き寄せ、
「・・・・・・・・・・・悪かった。」
小さく耳元で呟く。
「け、けーすけさん?」
予想外のことに驚いて名前を呼ぶが、拓海の体を抱きしめたまま啓介のほうはビクリとも動かない。
「えと・・・あの・・・その・・・あ、あれはどう考えても俺のほうが悪かったです。」
―――――――――あぁ、そうか・・・・・・・
何故だかその不安げに呟かれた拓海の声を聞いた瞬間、啓介はふとあの時のイライラの正体が分かった。
確かに原因の一つとして自分以外を見ていたってこともあるのだけれど、
でもそれよりもあの時胸にきたのはそんなことじゃなくて・・・・・・・。
「俺、あの、別に他の人を見てたわけじゃなくて、いえ、その見てはいたんですけど、別に、」
「分かってるよ。んなこと。」
おどおどしながらも一生懸命に何かを伝えようとする姿に思わず笑みがこぼれる。
「何かおかしいですか?」
そんな啓介の様子に照れたように頬を赤らめると、じっと睨みつける。
「べっつにー。まぁ今回は俺のほうも悪かったからな、許してやるよ。でもそうやって一人で変なことで悩むな!!
そんなに俺が信用できないか?!!」
「・・・・・・・・・・すみません。」
「って、あ~違う。そんなのを言いたい分けじゃないんだ。結局は信用できないのも全部俺のせいだもんな。
つまり何が言いたいのかってのはなぁ、」
小さく息を吸うと、じっと拓海の目を見つめて、
「もう少しだけ俺を信じてくれ。」
普段とは違った真剣な目で見つめられて拓海の呼吸が一瞬止まる。
「俺は、冗談でもましてや嘘なんかじゃなくて本気でお前が好きなんだよ。例え今、
目の前に絶世の美女が現れたとしても俺は100%お前を選ぶ。覚えとけ。」
そう言って再びぎゅっと拓海を抱きしめる。
「だからもうこんなくだらねーことで悩むなよ。」
「・・・・・・・・・はい。」
小さく呟くと、そっとその胸に顔を埋める。
その峠で見るのとは180度違った拓海の姿に、
―――――――あ~こいつ本当に可愛いよなぁ~・・・・こんな姿他の奴らには見せられねぇな。
特にアニキと松本には要注意だな。あいつら可愛いもん好きだから。
と、考えを巡らせていたことに拓海は気がつかなかった。
「啓介さん、腕痛いです。」
「あ、わりわり。」
二人がお互いのことを本当に理解するのにはもう少しだけ時間がかかりそうだ。
おわり
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