Guilty Ruby
「眠れないんですか?」
「別に。」
窓に映る男の姿を視界に捉えながらも、振り返ることなく高耶は返事をした。
「・・・・・・・外を、見てたんだ」
「ここからの夜景は国内でも有名なんですよ。」
そう言って、直江はそっとその傍らに寄り添った。
「まるで人間のようですね。」
その言葉にようやく高耶は直江の方へと視線を向けた。
「ここに居並ぶビル全てが。寄り添って、集まって、一人で立つこともできない。・・・・・・自分を見ているようです。」
「一人立つこともできないか、・・・まるで赤ん坊だな」
高耶は皮肉気に嗤った。
それを哀れんだような目で見ながら直江はそっとその頬に手を伸ばした。
「あなたは立てるのですか?」
ビクリと高耶の肩が揺れる。
「孤独が平気だなんて言う人は、本当の孤独を知らないだけだ。本当の孤独を知った人間はそんなこと、
・・・・・・・怖くて言えない。」
「・・・・・・・・・・・・。」
「あなたは立てるのですか?」
一瞬の静寂が辺りを包み込む。窓から見える明かりが、散りばめられたルビィのように光り輝いている。
「勝ち続ければいいんだろう・・・・―――――?」
「高耶さん?」
どこか虚空を見つめながら高耶が言葉を紡ぐ。
「勝ち続ければ、それで満足なんだろう? 敗者には興味がないんだろ?
愛だの何だの言ったって、永劫なんてありはしないんだ。お前もいつか俺に失望して離れていくんだろう・・・?人は、結局は一人なんだ。一人で立つしかないんだ。」
「私はあなたから離れはしない、離れられるわけがないっ!」
「どうだか?」
嘲笑うかのように直江を見ると、高耶は再び視界を窓に移した。
そんな高耶を直江は痛ましい目で見つめる。
400年前に彼が受けた精神の傷はまだ癒されてはいない。
信頼していた部下の裏切り。戦が負けに近づくほどみなが見せた落胆の表情は、
彼から”敗北”を奪った。
「俺は・・・・・お前を愛したりなんかしない」
静寂を破るように高耶が呟く。
「敗北は・・・・・しない」
「高耶さん」
「・・・・・・来るな」
震える両肩を抱きしめながら、拒むように高耶は背を向けた。
迷うことなく、静かに傍に近づくと直江はそっとその背へ手を伸ばした。
その温もりを待っていたかのように震えが止まる。
「一人には・・・・しないでくれ」
切実な思いを込めて高耶が呟く。
「一人にはしません。」
強すぎるほどの力で、直江はただその背を抱きしめる。
「もう、一人立つこともできないんだ・・・・―――――」
06.9.20
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