史裕の悩み
Dの遠征が始まってから既に数週間が過ぎた。
――――――最近啓介の様子がおかしい・・・・
初めの頃はもう一人のエースドライバーである藤原にライバル意識を燃やしていたのだが、ある日からその態度がガラリと変わった。
まぁ、具体的に言うならば、藤原を見る目つきが柔らかくなった。
はっきり言って初めてそれを見たときは驚いた。
レッドサンズのメンバーの前でも、ましてや涼介の前でもあんな目をした啓介の姿は一度だって見たことが無かったからだ。
それに藤原の方も初対面の人間ばかりだろうか、未だにどこか馴染めない感じがあるものの、啓介の前でだけはどこかほっとしたような、安心した顔をする。
―――――― 一体どうなっているんだ?
そう思っていると、ふと目の前をその二人が通りすぎた。
「・・・・・・・・・・。」
駄目だとは思いつつも、Dのメンバーとして一体何があったのか知っておかないと、と理由をつけてこっそり二人の後を追う。
歩くこと数分、どこへ行くのかと思っていたら二人は周りからは四角になる茂みの中へと入っていった。
気づかれないようにそっと草むらに隠れて様子を伺うとそこにあったのは、
その顔で女を見つめれば一瞬で落とすことができる、というくらい優しい目で藤原を見つめる啓介。
いつものぼーとした顔ではなく、ましてや緊張で張り詰めた表情でもなく、どこかリラックスしたような安心しきったように楽しげに笑う藤原。
「・・・・・・・・・・・・・。」
あまりにも見慣れない光景に俺は一瞬めまいを覚えた。
その時、
「何をしているんだ?」
突如背後から上がった声に慌てて振り返る。
「りょ、涼介!!」
「藤原と・・・・啓介?」
慌てる俺とは対照的に、冷静に俺の視線の先を見ると涼介は小さくニヤリと笑った。
「出歯亀だな。覗き見なんてあんまり趣味がいいとは言えないぞ。」
「や・・・そ、それは分かっているんだが・・・・・ってやっぱりあの二人ってそうなのか?!」
「見れば分かるだろう?」
「や・・・でも・・・その・・・・二人とも男同士だろ?お前はそれでいいのか?」
「俺・・・・?」
一瞬目を丸くした後、涼介は幸せそうに瞳を細めた。
――――――――うわっ!
思わずその笑顔を正面から見てしまい顔が熱くなる。
男だと分かっていても、涼介の笑顔は心臓に悪い。
「俺は・・・啓介が幸せならそれでいい。」
こっちの困惑をよそに涼介が呟く。
「あいつがあんな風に笑えるなんて俺も知らなかったしな・・・」
「涼介・・・・。」
どことなくそう呟く涼介の姿が寂しそうに見えて、俺は何も言えずに黙った。
「それに・・・」
「え?」
数秒間の沈黙の後涼介がゆっくりと口を開いた。
「藤原なら俺も大歓迎だ。」
見ると、さっきの寂しそうな表情はどこへやら楽しげに微笑を浮かべている涼介がいた。
「りょ、涼介?」
「まったく、からかいがいのある弟がもう一人増えた気分だな。これからが楽しみだ。」
そう言ってニヤニヤと笑う姿はまさに楽しみでしょうがないと言った感じで、こういう表情を浮かべている時の涼介は恐ろしく・・・・・・・・怖い。
――――――――頑張れよ藤原、啓介・・・。
その犠牲になるだろう二人に、一人胸の内で静かにエールを送る。
いろんな思いを抱えたまま、今日も峠にはエンジン音が轟いている。
WEB拍手から移動してきました(^^)
何故一発目が史浩だったのかは・・・・・・・私にもよくわかりません。(笑)