最近啓介さんの様子がおかしい・・・・―――――。
今も目の前で何やら話し込んでいる二人のダブルエースを見つめてケンタは額に皺を寄せた。
ケンタの悩み
ほんのついこの間までは横に並ぶことさえ滅多になかったというのに、ここ数日というものこの二人が一緒にいないことの方が珍しい。
以前から啓介さんの藤原への執着は結構あったし、藤原に対してはレッドサンズの中にいる誰よりも気に掛けているという風は何となく伝わってきてたから、ちょっと、いや、大分悔しかったけど、何か打ち解けることがあって仲良くなったのかなぁなんて、そんな風に思ってたんだ。
・・・・・・・・・・でも、何かがおかしい。
この前のことだ。
やっぱりあの時も二人一緒に歩いていて、その時藤原が足元にある石に躓いて
ころびそうになったんだ。でも俺があっと思う暇もなく、直ぐに啓介さんの腕が伸びてきて、慌てた様子で藤原を抱きとめたんだ。
普段の啓介さんなら、わざと転ばせて「ぎゃははははは」とか言って笑っていそうなのに・・・・・。
しかも驚くのはその後だ。
「ありがとうございます」と頭を下げて答える藤原に啓介さんは
、「お前いっつもぼーっとしすぎなんだよ!いつかでかいケガとかしたらどうするんだ!!」って言って、怒鳴ったんだ。
その後藤原は「何怒ってんだ!!」みたいな感じに逆ギレしてたけど、はっきり言って俺はあんな風に他人を心配
して怒る啓介さんの姿なんて始めて見た。
というか、啓介さんが涼介さん以外を本気で心配している姿を見たっていうのもあれが始めてだった。
まだあるぞ。
この前の夜遠征先で夜に皆でファミレスに行った時のことだ。
確かあの時啓介さんは何かドリアみたいなものを食べていたんだけど、藤原のやつそれを少し羨ましそうに見てたんだ。
まったく意地汚い奴だ。
俺がそれをたしなめようと少し背を乗り出した瞬間、驚くことに俺が何か言う前に藤原のその様子に気づいた啓介さんが「食うか?」って言って自分が食べかけのスプーンを差し出したんだ!!!!
俺が前に啓介さんのお茶を飲もうとしたら、「汚ねーだろ」とかいって飲ませてもらえなかったのに・・・・・・。
その後藤原は「別にいいです」とか言って食べようとしなかったけど、結局啓介さんの「うまいぜ~このドリア
」っていう言葉であっけなく陥落し、「・・・・・・じゃあ一口だけ」って言ってそのまま啓介さんのスプーンで、啓介さ
んのドリアを食べたんだ!!!!!
あれにはその場に居合わせた皆が目を丸くした。
涼介さんだけはどこかニヤニヤとした笑みを浮かべていたけど。
レッドサンズでも一部の人間にしかしられていないことだけど、啓介さんは一見誰にでも親しそうだけど、つるむ相手は自分が決めた相手としか一緒にはつるまない。
それにどんなに仲良くなっても、涼介さん以外にはどこかその間に壁を作っている。
なのに、あの時の啓介さんと藤原の間には壁なんかなかった。
それに気づいた時ははっきり言ってショックだった。
俺がずっと一緒に居ても出来なかったことを、ついこの間来たばっかりの奴にやられるなんて。
何だか何も考えたくなくて、その後は「先に戻ってます」って言って先に店を出て一人車に寄りかかりながらタバコを吸ってたんだけど、数十分ぐらいが経った頃ふと誰かの話し声が聞こえて来たんだ。
最初は気にもしていなかったんだけどその声がどこか聞き覚えがあるような気がして、そうっと声がした方を覗く
と、何とそこには藤原と啓介さんが二人で何か話しこんでいたんだ!
そうこうしている内に、何を話しているのかと耳を澄ませる俺の耳に突如啓介さんの怒鳴り声が響いてきた。
「あんまりアニキのことばっか見てんじゃねぇよ!!」
(アニキ・・・?涼介さんのことか???)
「別に見てませんよ!!!」
ちょっとムッとした表情で藤原が怒鳴り返す。
「見てただろ?!!」
「見てません!!!」
それでもなおも疑わしい顔を崩さない啓介さんに小さく舌打ちすると藤原はさっと踵を返した。
「用がそれだけならもう戻ります。」
「あっ!おい待てよ拓海!話は終わってねぇぞ!!!」
そう言って腕を掴もうと伸ばしてきた啓介さんの手を振り払うと、振り返って藤原は一言。
「どうして俺がアンタ以外を見なくちゃいけないんだ!」
って言ったんだ。
「・・・・・・・・・・・。」
どこか意表につかれたように呆然と見張る啓介さん。
でもそのまま藤原が店内へ戻ろうとしたからはっと我に帰って「待てよ、藤原!」
って少し嬉しそうな顔をしたまま啓介さんも店の中へ戻っていったんだ。
あの時のあれは一体なんだったんだろう・・・・・・・・。
今思い出してもはっきり言って訳が分からない。
確かには認めるのもむかつくけれど、あの二人は仲が良くなったと俺は思う。
――――――けど・・・・あれは本当に仲がいいだけなのか?
俺には最近よく分からなくなってきた。
今も目の前でなにやら話し込んでいる二人を見つめる。
いつもなら俺の啓介さんに近づくな!と二人の間に割り込んでいくところなのだが、どこか入っていけないような空気を感じ、どうにも足が動こうとしない。
・・・・・・本当ならば聞きたい。
藤原との間に一体何があって、どうなっているのかを。
けれど、聞いてしまっては二度と後戻りは出来ないような感じがする。
――――――俺は一体どうすればいいんだ~~~~っ?!
悶々とした思いを抱えたまま立ち尽くすケンタを、赤城山の上に輝く月だけが同情するかのように淡く輝いていた。
WEB拍手第2段です。
私の中でケンタは、啓介と拓海の逢瀬を目撃してビックリして欲しい人間1位でしたのでこれ書くのはもの凄く楽しかった記憶があります。