クリスマスハプニング



「で、つまり直江さんとケンカしたってこと?」
「・・・・・そういうこと、かも。」

ブスっとした表情を浮かべながら、高耶は小さく呟いた。

「あいつ、俺には23日予定あるとか言いながら、女と歩いてたんだ。」
「それは・・・・まぁ。」


(直江さんに限って浮気なんてありえないと思うけど・・・・)


クションを抱きしめながら部屋の隅で眉を顰めている高耶を見る。

「それで家を飛び出して来たってこと?」
「ん。・・・ごめんな急に来て。でも他に行くところなくてさ。・・・もしかして何か用事とかあったか?」
「いや、別になかったけど。直江さんには家にいるっていうこと言ったの?」
「・・・・・・・・言ってない。」
「つまり、黙って来たってわけ?」

コクリと頷く高耶を見ながら譲は小さく溜息をついた。

と、その時玄関の扉が激しく叩かれる音がして、聞き覚えのある声が響いてきた。

「高耶さんっ!!!ここにいるんでしょう?!!どうして急に出て行ったんですかっ?!開けてくださいっ!!」




「・・・・・・どうする高耶?」
「何でアイツここが・・・。」

呆然と目を瞠る高耶を見つめながら、譲は呆れた表情を浮かべた。

「高耶の行くところなんてすぐ分かるよ。 バレたくないんなら嘘ついて出て行かなきゃ。・・・・・それとも、迎えに来て欲しかったの?」
「ばっ・・・!違うっ!!」

顔を真っ赤に染めながら、立ち上がると高耶は足音荒く玄関へ向かった。

「うっせー、直江っ!!!少しは人んちの迷惑考えろっ!!」
「高耶さんっ!!!」

わずかに開いた扉の隙間から身体を素早くねじ込ませると、喚く高耶をキツく抱きしめた。

「ちょ・・・・苦し、直江・・・・んっ!!」

苦しそうに呻く高耶の唇を乱暴に奪うと、そのまま息も出来ない激しさで執拗に高耶の唇を追い求める。

「ふっ・・・・、や・・・・めっ!!!」
「それくらいにしといたら、直江さん。」

突如奥から響いた冷たい声で我を取り戻すと、直江はそっと高耶を離した。
しかし、逃げられないようにしっかりと手は回したままで。

「まったく、痴話げんかならよそでやってよね。」
「すいませんでした、譲さん。ご迷惑をおかけしたようで。」

冷静に会話を交わす二人とは対照的に、よりにもよって親友にキスシーンを見られた高耶は顔を真っ赤に染めながら、口をパクパクと開けた。

「別にいいけど。高耶に誤解されるようなことはなるべくしないようなことはしないほうがいいと思うよ。」
「誤解・・・・・?そう言えばどうして突然家を出て行ったんですか?!!」
「あ、あれはお前が悪いんだろっ!!俺には予定があるとかいいながら、女と出かけやがってっ!!!」
「女・・・・?」

その言葉に首を傾げる直江を睨み付ける。

「とぼけるなっ!!俺はこの目で見たんだ!23日に、二人で歩いているお前をっ!!」
「23日・・・・・? あぁ、あれですか。見られてたんですね。」
「やっぱりっ!!!!」
「・・・・高耶さん。あれは姉です。」
「へ?」
呆然と目を瞠る高耶に、ガクッと肩を落とす。
「あなたも会ったことはあると思うのですが・・・―――――。」
「い、いや・・・・・その俺、お前しか見てなくて。・・・・でも思い出してみたらそうだったような気もしないでもないけど。」

小さくごめん、と呟く高耶に苦笑すると直江はそっとその体を抱きしめた。

「昨日は姉さんに貴方へのプレゼントを選ぶのを手伝っていてもらっていたんです。」
「・・・・・・・・そう、だったんだ。」
「えぇ。だから誤解しないで下さい。」
「ん。」
安心したように、高耶もその背に手を回す。

「あのー。話がまとまったところで悪いんですけど、」
「譲っ!!」

すっかり忘れていた親友の存在に慌てて直江から手を離す。

「あ、その、これはっ!!」
「で、どうするの?帰るの?」

その言葉に、直江を見つめると高耶は小さく頷いた。

「あぁ、帰る。ごめんな、邪魔して。」
「いいよ、高耶の頼みなら。」

にっこりと笑いながら、言外に直江の頼みはお断りだと言う譲にどこか居た堪れないような感じを感じ取って、直江は居心地悪そうに身じろいだ。

「で、では、帰りましょうか。それでは譲さん失礼します。」
「えぇ。高耶のことよろしくお願いしますね。」

バタンと扉が閉まり、二人の足音が完全に聞こえなくなるのを確認してから譲は、はぁっと溜息をついた。


(まさかクリスマスに親友のキスシーンを見ることになるとはな・・・・)


直江が騒ぎまくった拍子に乱れた玄関の靴を整える。


(まったく、あんなデカイ男の一体どこがいいんだろう。)


でも、


(高耶幸せそうだったな・・・・・・・・・。)

クリスマスが来るたびに、寂しそうな表情を浮かべていた友人が脳裏に浮かんだ。


『どこもかしこもクリスマスって感じだな。』

いつだったか二人でクリスマスの街を歩いた時、鮮やかに彩られたイルミネーションを見ながら高耶が言った。

『そうだね。』
『他人の誕生日にまで一緒にいたいっていう気持ちが分かんねーぜ。』

笑いながらそう言った高耶の顔をふと見ると、声色とは裏腹に寂しそうな表情を浮かべてネオンの下を歩く人々を見ていた高耶がいた。


(ま、高耶が幸せならそれでいいんだけどね。)


先ほどの光景を思い出し嬉しそうに微笑むと、譲はそっとその場を後にした。

今頃幸せそうに笑いあっているだろう友人を思い描いて。

クリスマスの奇跡が本当にあるのだとしたら、どうか友人の幸せが未来永劫消えることなくずっと続きますように、と願いをこめて。


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