渡された案内書に目を通しながら高耶は教習所の受付のソファに腰を下ろしていた。
周りからは久しぶりに会った友人と何やら騒ぎあっている声などが聞こえてくる。
その時、
「仰木高耶さんですか?」
ふと、背後から声を掛けられ、振り返った先で高耶は息を飲んだ。
モデルだと言っても疑いようの無いくらい、整った顔と、すらりと伸びた手足、ふわりと揺れる琥珀色の髪。
そこにいた姿に不覚にも高耶は一瞬見とれてしまった。
「あの・・・仰木さんでよろしいですよね?」
「え?あっ、は、はい!!」
「良かった。間違っていたらどうしようかと思いました。」
「す、すいません。」
思わず赤くなってしまった頬を隠すように下を向く。それに小さく笑うとその男性は1枚の紙を高耶に渡した。
「これが今度からの日程表となります。」
「あ、はい。よろしくお願いします。その・・・」
「あぁ、すみません。自己紹介がまだでしたね。私は直江信綱と言います。
これからあなたの担当をさせてもらいます。よろしくお願いしますね。」
「あ、はい。よ、よろしくお願いします。」
そう言ってふわりと微笑を浮かべる直江に、またしても顔が熱くなるのを感じながらも
高耶はペコリと頭を下げた。
「・・・で、その直江さんがどうだっていうのさ。」
「それが、信じられないくらいカッコイイんだよ・・・。声も低くていい声でさ。」
どこかポーっとした表情でそう言う友人をどこかゲンナリとした表情で見ると、譲ははぁと大きく溜息をついた。
「あっそう。で、ちゃんと免許は取れそうなの?」
「まだ昨日から行ったばっかだからわかんねぇけど、多分大丈夫だと思う。・・・直江が担当だし。」
最後に付け加えられた一言に盛大に溜息をつくと、譲は思わず頭を抱えた。
「もう直江さんのことは分ったよ・・・・ん?あれ、・・・・・・・そういえば、直江さんの下の名前ってなんだっけ?」
「信綱だよ。何か渋くてカッコイイだろ?」
後半の言葉は聞き流して、譲はう~んと唸ると記憶を辿った。
(直江・・・直江・・・・どこかで聞き覚えがあるような・・・・)
しばらくそうして頭を抱えた後、譲は「あっ!」と声を上げた。
「どうかしたのか?」
「ずっと、直江ってどこかで聞き覚えがあるような気がしてたんだけど、高耶が行ってるのって橘教習所だったよな?!」
「そうだけど・・・。」
「やっぱり。」
「何がだよ。」
意味が分らずどこかブスっとした表情で高耶が問いかける。
「直江さんだよ。一時期聞いたことがあったんだ。橘教習所にはすっげーカッコイイ人がいるって。」
「そうなのか?」
「うん。何か本当に凄かったらしいよ。直江さんを担当にしてくれって脅迫まがいの
電話まで掛かってきてたらしいし。」
「へぇ・・・・。」
「それ以降担当教官は何を言われても一切選べないことになったらしいよ。
そんな中直江さんが当たるなんて運が良かったね、高耶。 高耶?」
「・・・・・・・・・・・やっぱ直江ってすごかったんだなぁ~。」
「それはもう分ったってば・・・・・・・。」
キラキラと瞳を輝かせてそう言う友人に、譲は思わず机に突っ伏した。
「こんにちは、高耶さん。」
「あ、こ、こんにちは。」
学校が終わるなり教習所へ直行すると、すぐに高耶の姿を見つけた直江が傍に歩み寄って来た。
「それでは今日は早速車を運転してみましょうか。」
「あ、はい。」
そう言ってコースに降り立つと、近くに止めてあった車に二人で乗り込む。
「じゃあ、まずは私が少し運転しますのでちょっと見ていて下さいね。」
「はい。」
そう言ってシートベルトを締め、エンジンを回すと同時にゆっくりと車が動き出した。
そうしてコース内にあるいくつかのコーナーを曲がった辺りから高耶はあることに気がついた。
(直江って・・・むちゃくちゃ運転うまいっ!!!)
教官だと言ってしまえばそれまでだが、シートから伝わる振動も、ギアのシフトダウンの仕方なども全てが今まで、
体験したことのないようなものだった。
「・・・さん。仰木さん。」
「あ、はいっ!!」
ぼーっとその技術と運転する直江の横顔に見とれていた高耶はその声にはっと我に返った。
そんな高耶の様子を直江は心配そうに見つめる。
「大丈夫ですか?学校に行った後ですからね。疲れていませんか?」
「あ、大丈夫です。その・・・俺なんかより直江、さんの方が疲れてるんじゃ」
「私なら大丈夫です。心配して下さってありがとうございます。」
ニッコリと笑顔を投げかけられ高耶の顔が真っ赤に染まる。
「それから、私のことは直江で結構ですよ。」
「え?でも・・・それは・・・・・」
ダメじゃないのか?と見上げる高耶に、ふわりと笑みを浮かべる。
「いいんですよ。それに、もしよろしかったら私も高耶さんとお呼びしてもいいですか?」
「え?」
突然言われたことに頭の中が真っ白になる。しかし、その沈黙を別の意味にとったのか直江はしゅんとした表情を浮かべた。
「いけませんか?」
「や!全然ダメじゃないけど・・・・その・・・本当にいいのか?直江って呼んでも。」
「はい。あなたにはそう呼んで欲しいんです、高耶さん。」
「わ、分かった。」
熟れトマトみたいになった頬を隠すように視線を下に向けると、高耶はコクコクと深く頷いた。
かわいい高耶さんを書きたかったんですが・・・・・あれ?もしかして何かおかしな方向に行ってますか?