++なかなおり++
去年の夏突然現れた『秋名のハチロク』は、急に現れたのも束の間、
啓介さんと涼介さんに勝って(俺は認めてないけど)、
いつのまにかプロジェクトDのダウンヒルドライバーとしていとも簡単に俺達の中に入ってきた。
しかもあいつは一応一度ランエボに負けているくせに、何故だか誰もそのことは口にしない。まるで無かったことのように。
啓介さんに至ってはわざわざそのことを言いに秋名へ行ったらしい。 しかも、敵は討ってやるみたいなことも言って。
・・・・・・・・・・・・。
とにかく俺はあいつが気に食わない。
どんなに啓介さんや涼介さんが目にかけていようとも。ムカツク奴はムカツクんだ。
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「ケンタお前藤原と仲悪いのか・・・?」
「け、啓介さんっ!」
ふと一人隅っこの方で缶コーヒーを飲んでいたところに声を掛けられ、思わずむせ返りそうになる。
「なぁ、仲悪いのか?」
「いえ・・・別に・・・・普通だと思いますよ。」
そう答えると啓介さんはほっとしたように「そっか」と呟くと、俺の頭をクシャっと撫でた。
「あいつ、こっちに知り合いいねぇから、いろいろ緊張してると思うんだ。だからお前が力になってやってくれよ。俺より年も近いし話も合うだろ?」
そう言ってじっと俺を見つめる。
啓介さんにそんな縋るような目で頼まれたら俺に断われるわけがない。
「・・・・・分かりました。」
「ありがとな、ケンタ!」
途端に嬉しそうな笑みを浮かべる。
―――――――あぁ、俺は啓介さんのこの顔が好きなんだよなぁ~・・・・。
そう思っていると、啓介さんは用は済んだとばかりにすぐさま踵を返すと、
「おぉ~い、拓海~~っ!!」
そう言って、また藤原の下へ走り寄って言った。
――――――――また藤原か・・・・・
思わず再び眉間に皺が寄りそうになる。
だけど、次に聞こえてきた言葉に俺はピタリと動きを止めた。
「ケンタお前のこと別に嫌ってなかったぞ!!」
「ちょ!何言ってるんですか!!」
藤原が慌てたように啓介さんの口を覆う。
「んだよ、昨日はあんなに『俺、中村さんに嫌われてるんでしょうか』って、今にも泣きそうな顔してたくせに。」
「うるさいっ!!それ以上喋ったら二度と口ききませんからね!!」
どこか呆然としながらそのやり取りを見ていると、ちらりと藤原と視線があった。
が、どこか居心地悪そうにすぐさまその視線は外される。
――――――――ふぅ~ん・・・・・・
なんだ、生意気で何も考えてないただのとろい男だと思ってたのに、そんな可愛い一面も持ってたのか。
まぁ、啓介さんの頼みでもあるし、第一俺はそんなに悪い男ではないのだ。
というかこれ以上藤原に何かしようものなら、実は先ほどからチクチクとした視線を送ってくる松本さんや、もの凄い黒いオーラを放っている涼介さんに何をされるか分かったもんじゃない。
俺もここらへんが潮時かな、とは思っていたんだ。
でも、やっぱりムカツクのは変わらないし、とりあえず今度から挨拶ぐらいはしてやるかな。
それでもって軽く1発くらい殴ってやろう。それですっきりしそうだ。
いいだろ?これくらい。
だってアイツは俺が絶対手に入れられなかったものを持っているんだから・・・・―――――――。
Fin
(07.6.13)
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