ハッピーニューイヤー! その後




1月4日。正月休みも明け、久しぶりに職場へ向かった直江は、朝から落ち着かなかった。

会社に着くなり、意味も無くオフィス内をうろうろと彷徨ったり、席に着けば無駄に椅子をガタガタさせたりと、いつもの冷静沈着な直江の姿しか知らない人々はその直江の奇行に我が目を疑い、そして口々にその原因について囁きあった。

だが当の本人はそんな周囲なんか目に入っていないのか、気にした様子も無く、相も変わらずウロウロと廊下を歩き回っていた。


(高耶さん・・・・一体どうして)


それは昨夜に遡る。

結局、あの後朝が来ても直江が高耶を離さなかったせいで、ベッドから起き上がることができないまま高耶は1月2日をベッドの中で過ごした。
そして昨日の1月3日、結局おみくじも何もできなかったと、なじる高耶をなんとか宥めようと、直江は高耶をつれて再びあの神社を訪れていた。

(その後からだ・・・・・・)


神社から帰るなり高耶の様子はどことなくおかしかった。最初はどこか落ち込んだような様子だったのだが、家に着く頃になると、どこか意を決したように拳を握り締め、ギラギラと瞳を輝かせていた。
最初はその変化もたいしたものでもなくあまり気には留めていなかったのだが、それはすぐに具体的な形となって現れ始めた。
まず夕食は直江の好きなものばかり。しかも朝起きるとほかほかの朝ごはんが用意されていて、おまけに家を出るときにはいってらっしゃいのチュウまであった。 いつもはお願いしても滅多にしてもらえないのに。


しかも、


『いってらっしゃい直江、気をつけて行って来いよ。んでもって夕飯はお前の好きな物作っておくから早く帰って来いよ。待ってるからな。』
というセリフ付きである。


(一体何がどうしたというんだ・・・・・)


落ち着きを取り戻す為に一旦デスクに戻ると、直江は思わず頭を抱え込んだ。


(あの高耶さんは嬉しい。しかし、あまりに嬉しすぎて・・・・・・怖い)


初詣の時に自分に女装させたことについては、あの後誤り倒されたし、十分な報酬も貰ったのでそのことを申し訳なく思っているわけではないだろう。

(じゃあ、一体なぜ・・・・・?)


************


「ただいま。」

結局答えが見つからないまま夜になり、直江は家に戻ってきた。途端に奥からパタパタという足音が聞こえてきた。

「おかえり、直江。ご飯できてるけど、先にお風呂にする?それとも・・・・・俺?」
「ゴホッ!」

予想外の言葉に思わず咳き込んでしまった。

「大丈夫か、直江っ?!!」
「だ、大丈夫です。」


(今だ、今聞かなければっ!!)


拳を握り締め直江はまっすぐに高耶へと視線を向けた。

「あの、何かあったんですか?」
「・・・・・・・・・何がだ?」

一瞬あった間に直江の目が光る。

「やっぱり、何かあったんですね!」
「何もねぇって言ってるだろっ!なんでんなこと聞くんだよ!」
「それは、その、高耶さんの様子がいつもと違うので、おかしいな、と。」
「・・・・・・・・・俺がお前に優しくするのがそんなに変か?」
「え? いえ、そういうわけでは、」

突如下を向いてしまった高耶の様子に直江が焦りだす。

「俺がお前に優しくするのがそんなに嫌なのか?」
「い、いえ、そんなことはありません。ただ、ちょっといつもと違っていたので」
「どうせ俺は優しくなんてねぇよ。・・・だからって、俺のことを捨てるのか?」
「な、ななな何言ってるんですか! そんなことできるはずがないでしょう!!」

高耶の予想外の言葉に慌てて否定する。

「どうせ俺のことが嫌いになったんだろう?」
「違いますっ!!」
「うそ、だ。だってお前は・・・・・・・優しい俺は嫌いなんだろう?」

高耶がそう尋ねると同時に高耶の瞳がうるうると潤みはじめた。それを目に留めるやいなや、直江はもの凄い勢いでその場に平伏した。


「申し訳ありませんでしたっ!私が悪かったです!!」



**************

あの後、尚も謝ろうとする直江をなんとか説得し、風呂にいかせ、一人きりになったリビングで、高耶はそっとポケットから1枚の紙を取り出した。
そこには、『吉』と書かれた文字の下に小さく「恋愛 優しさ与えよ なければ失う」と書かれてあった。
「ふん、離してたまるか。」

誰にとも無く一人呟いて、またそれをポケットにしまうと、今頃は躍起になって髪をあらっているだろう男の方へ視線を向けた。


「今年も、お前は俺のもんだ。」


何はともあれ幸せな1年のはじまり、はじまり。



そういえば高耶さんおみくじしてないなぁ、と思ったので。



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