遠征先でのバトルが終わった後、二人で車の傍で休んでいた時、空を見上げながらお前が、
「織姫と彦星って幸せですよね。」
なんていうから俺は一瞬耳を疑った。
++永遠に続く思い++
「どーいう意味だよそれ。」
「そのまんまの意味ですけど?」
分けがわからず聞き返す俺とは対照的に、ケロっとした顔で拓海が言った。
「あいつらって確か1年に1回しか会えないんだろ?」
「そうですね。」
「それのどこがいいんだよ?!」
「いいじゃないですか。」
「分けわかんねー!!」
「まぁ、啓介さんには分らないかもしれませんね。」
小さく呟かれた拓海の言葉に思わずピクリと眉が動く。
「・・・・・何だよ、じゃあお前は俺たちがあいつらみたいに1年に1回しか会えなくてもいいっていうのか?!」
その質問に少し考え込んだ後、
「・・・・・・・・そうですね。それもいいかもしれませんね。」
なんて平然とした顔でお前が言うから俺は思わずブチ切れてしまった。
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「それで、『じゃあもう会わねー』と言って帰ってきたというわけか?」
「・・・・・・・・・そういうこと。」
しょんぼりとした表情でベットに座る啓介に思わず溜息が漏れる。
帰ってくるなり玄関まで出迎えに来た辺りからどうせ藤原と何かあったのだろうということは
分かっていたが、さすがにこう毎度毎度何かあるたびに相談にのっていてはいい加減頭が痛くなってくる。
「そんなにヘコむくらいなら言わなければいいだろう?」
「だってあいつ・・・・・・・・・いつも会いに行くのは俺ばっかだし、どっか行こうって誘うのだって俺からで・・・・・もしかして俺って一方通行?って悩んでたところに会うのは1年に1回でいいだぜ?」
「それは・・・まぁ・・・・」
――――――――確かにヘコむかもしれないな・・・。
「だけどな、啓介。多分藤原は“1年に1回しか会えなくてもいい”って意味でそんなこと言ったんじゃないと思うぞ。」
「?じゃあどういう意味で言ったんだ?」
「それはお前が自分で考えろ。二人の問題だろ。」
「・・・・・・・・・。」
う~ん、と啓介が腕を組みながら首を捻ると同時に、丁度啓介のポケットに入っていた携帯が震えた。
「あっ!」
ぱっと携帯を開き、そこに表示された文字に一瞬目を見開くと、啓介は携帯を握り締めたまま嬉しそうに立ち上がった。
「わりぃ、アニキ。ちょっと電話してくる。」
「あぁ。」
――――――――藤原からか。
我が弟ながら分りやすすぎるな、なんて思いつつ先ほどとはうってかわって
幸せそうに部屋を出て行く弟の背を見つめる。
――――――――これで解決すればいいが。
何やら扉の向こう側で話し声が聞こえるのを聞きながら涼介は星に祈った。
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「もしもし?」
『あ・・あの・・俺ですけど・・・今大丈夫ですか?』
「大丈夫だけど、どうしたんだよ。」
嬉しさを押し殺し、平然とした声でそう言うと拓海は少し遠慮したように口を開いた。
『あの・・・その、今から赤城山って来れます?』
「あぁ大丈夫・・・って、お前今赤城に居んのか?!!」
『・・・・・はい。』
どこかバツの悪そうな声で拓海が小さく頷く。
「バカヤロウっ!!!そーゆーことはもっと早く言え!!今すぐ行くから待ってろ!」
返事も聞かずにブチッと電話を切ると啓介はそのまま猛然と玄関を出てFDに乗り込んだ。
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赤城山山頂。
ハチロクに背をあずけながら夜空を見ていた拓海は、ふと聞こえて来たロータリーサウンドに視線を下ろした。
「あっ」
そしてそのまま隣に止められたFDの中から現れた姿に拓海が口を開くよりも先に、
啓介の手がゴツンと拓海の頭を軽く叩いた。
「あのなー!もし俺がこれなかったらどうするつもりだったんだよ!!!」
「・・・・・・その時は帰るつもりでしたよ。」
叩かれた頭をさすりながら啓介を見上げる。
「あの・・・この間はすみませんでした。俺・・別にそーいう意味で言ったんじゃないんです。」
「?」
その拓海の言葉にそういえばケンカしていたのだということを思い出した。
――――――――嬉しくてすっかり忘れちまってた・・・・。
ポリポリと頭を掻く啓介には気づかず、視線を外すと拓海はゆっくりと口を開いた。
「俺・・未だに啓介さんがどうして俺なんかと付き合ってくれてんのか分んなくて、いつ“俺なんかいらない”って言われるのか怖くて・・・それなら1年に1回でもずっと会うことができた方が幸せなんじゃないかなって、そう思って・・・・。」
珍しく不安げな様子で言われた言葉に少なからず驚く。
「そんなくだらねーこと考えてたのか?」
「くだらないって!!」
怒鳴り返す巧みの顎を捉えるとそのまま自分の所へ引き寄せると、その唇に口付ける。
「んっ!」
触れた唇の隙間から拓海の声が小さく漏れる。
そしてそっと唇を離すと啓介はじっと拓海の目を見つめた。
「言っておくけど俺はお前以外自分から欲しいと思ったやつなんていねぇ。
だから、こっから先お前が俺から離れたいとか言っても離す気なんてねぇからな。覚えとけ。」
真っ赤な顔をして小さく頷く拓海に、ニヤリと笑みを浮かべる。
「ま、実際俺とお前が織姫と彦星みてーになったら俺は泳いででもお前んとこに会いに行くけどな。」
「!」
「どーした?」
「いえ別に・・・・確かに啓介さんならやりそうだなと思って。」
「うっせー!!!」
「嘘ですよ。その・・・俺も・・・俺も泳いで会いに行きますよ。」
小さく呟かれた拓海の言葉に、啓介は驚いた表情で目の前の人物を見つめた。
あの冷静沈着な兄よりも何が起こっても動じず(というか何も気にしてない)、バトルにはよく時間ギリギリに来るわ、
挑戦にも自分から応じないようなあの藤原拓海が自分に会うために泳いでくるとは・・・・・。
――――――――――何だかんだ言って俺って愛されてるのかも。
「何ですか、その顔は。」
ニヤニヤと笑みを浮かべる啓介の顔をじっと睨みつける。
「べっつにー?」
「っ!じゃあ用事も済んだんで俺もう秋名帰りますね。」
「あ、待てよ藤原っ!!」
真っ赤な顔をして踵を返した恋人を嬉しそうに追いかける。
「ついて来ないで下さい!!」
「ムリムリ。お前が嫌がってもぜってー俺はお前んとこ行くからな。」
静寂の中ぎゃあぎゃあと二人の叫び声が木霊する。
「一生離さねぇから覚悟しとけよ!」
今日も赤城の山に声が途切れることはない。
(07.7.7)
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