「コンラッドが町にやって来た」




授業終了のチャイムが鳴り響き教室は一斉に騒がしくなり始めた。
「おい、渋谷帰ろうぜ。」
「おぉ」
すでに帰り支度を終えて俺の前に立っている奴は青木と言って、お互いに部活に入っていないために、 帰る時間が一緒になり最近良く一緒に帰っている奴だ


「ねぇねぇ見たっ?!すっごいかっこいいよね!!」
廊下を女子生徒が甲高い声で叫びながら歩いていく。
「見た見たっ!!すっっごいかっこいいよねっ!でも、門のところにいるって事は誰か待ってるのかなぁ。」


――――すっごいかっこいい奴ねぇ―――――



脳裏に浮かぶのはあらゆる汁をだして叫びまくる超絶美形と、天使のごときわがままプー。



――――やっぱ人間顔じゃなくて、中身だよなぁ――――



「なんかさわやか~って感じがして」
未だ夢から覚めぬ様子で呟く女子生徒の言葉に、ありえない人物の姿が浮かぶ。


「それに、ねぇ見えた?瞳の中に何か銀の・・・」

ガタンっという音を立てて机が傾く。
「し、渋谷?どうしたんだよ。」



ありえない、ありえるはずがない。でも、もしかしたら・・・・。



「わ、悪い、今日用事あったんだった。」
「えっ?!ちょっと、おい、渋谷っ!」

「悪いっ!また明日なっ!!」
全速力で廊下を走りぬける。通り過ぎた生徒たちが何事かと目を瞠る。
でも、もう何にも構ってなんかいられない。



玄関を出ると、門の周りにはすでに人だかりが出来ていた。

人垣の中を掻き分けて、ようやく視界にうつったのは・・・。



「こ、こここコンラッドっ!何でここに?!」
「ユーリ」



二人が一歩ずつ近づいたとき。



「渋谷君の知り合いなんですかぁ??」
先程から話しかけるチャンスを狙っていた女子生徒の一人がコンラッドに話しかける。
「えっ?えぇ。」
コンラッドがにっこりと微笑むと同時に周りから黄色い歓声があがる。

「あの、もし良かったら、このあと一緒にお茶でもいきませんかぁ?」
「えっ、ちょっと今は、」

苦笑いを浮かべているコンラッドのほうをむぅっと睨むとユーリはコンラッドの手を掴んだ。

「ダメだっ!」
驚いた視線がユーリに向けられる。
「行くぞっコンラッド!!」
ぐいぐいとコンラッドの腕を引っ張って行く。



門の前には呆然とする人々が残された。。
「ちょ、ちょっと、何で止めないのよっ!!」
我に返った生徒の一人が声を上げる。
「だって、ねぇ?」
仕方がないといった様子で顔を見合わせる。



「渋谷君なら仕方ないじゃない。」



+++++++++++++++



「だいたいコンラッドは愛想が良すぎるんだっ!!」
あの門の前からずっとユーリは文句をぶつぶつと言ったままだ。

「聞いてんのかよ?!」
後ろを振り向くと、コンラッドが笑っていることに気が付いた。
「何笑ってんだよっ?!!」
「いえ、もしかしてやきもちやいてくれたんですか?」
「や、やきもち?!!違うそんなんじゃないっ!!」
真っ赤になって否定するがコンラッドは相変わらず笑ったままだ。

「はぁ・・・。なんかもうどうでも良くなってきた。そういえばコンラッドなんでここにいるんだ?!!」
最初に疑問に思ったことを問いかける。

「実は、ウルリーケにちょっとお願いしまして。」
「はぁ?それだけで来れたの?」
「えぇ。陛下のあちらでの様子が見て見たい。あっちに行かせてくれ。行かせてくれたら何かお土産を持って帰るからって。」
「・・・・お土産??」
はいっと言ってコンラッドは手に持った袋を上げた。


「メロンです。」


はぁぁぁと全身の力が抜ける。
「・・・言賜巫女って、・・・それで、いつまでここにいられるんだ?」
「それが・・・・もぅ行かなくては」
そう言うなりコンラッドの周りを淡い光が覆い始める。

「コンラッド?!」
コンラッドはすまなそうな表情を浮かべると、ユーリに一歩近づいた。
「すいません。本当はもっと貴方といたかった。」
コンラッドの手が頬に触れる。
「なんだよ、それっ!!それならそうと早く言えよっ!そしたらもっと話だって出来たのにっ!」
すいませんともう一度呟き、ユーリの体を軽く引き寄せる。
「それでは、あちらでお待ちしています。貴方が来るのを。」
耳元でかすれるように呟くコンラッドの声を聞きながらゆっくりと頷く。 「あぁ。」

唇を合わせようとした瞬間に光が弾ける。




「コンラッド?」
目を開けると、そこには誰もいなかった。

まるで白昼夢のような、不思議な感覚。だけど、それを否定するかのように地面に一つの袋が転がっていた。

「あ~ぁ忘れていってやんの。」

拾いあげたメロンからは微かに彼の匂いがした。


「明日は大変だろうなぁ~。」


まぁそれくらい覚悟をしての行動だったので別に構わないけれど。


「俺もウルリーケにお願いしてみようかな」


このメロンをもって、今度は自分が彼を驚かせに行くのもいいかもしれない。



後日やはり女子からの質問攻めにあったけれど、覚悟していた罵声も、非難もなかった。
というか中にはがんばってと手を握ってくる人までいた。



どうなってるんだ?





NOVEL     「青木の受難」