「青木の受難」




はじめまして、青木です。

今日は僕の先日あった出来事を聞いて下さい。

先日、渋谷に一緒に帰ろうと言った時のことです。



「おい、渋谷帰ろうぜ。」
「おぉ」
僕がそう言うなり、渋谷は鞄に荷物を詰め始めました。
その時です。ちょうど廊下の方から女子生徒たちの話し声が聞こえてきたのは。
その女子生徒達は何やら嬉しそうに話していましたが、僕は別段気にもしませんでした
「でさ、今日どうする? 前言ったゲーセン行ってみるか?」
「・・・・・・。」
「それともCD買いに行くの付き合ってくれる?俺欲しいCDあるんだよね。」
「・・・・・・。」
「それとも・・・」
僕が考えを巡らしているときに、ちょうど視界に女子生徒たちが通り過ぎて行くのが見えました。


ガタンっ


急に音を立てて渋谷が立ち上がりました。


「わ、悪い、今日用事あったんだった。」
「えっ?!ちょっと、おい、渋谷っ!」
「悪いっ!また明日なっ!!」
そう言って渋谷は全速力で教室を出て行ってしまいました。

「一体どうしたんだ?」

いつもと様子の違う彼に僕は首を傾げました。

その時急に窓側にいた女子生徒達が騒ぎ始めました。
何事かと思い僕も窓から外を覗き込むと、そこにいたのは先程まで目の前にいた渋谷でした。

よく見ると何やら人ごみの中で、誰かと話をしているようです。
用事とはあの人のことだったのでしょうか。

「うわぁ、かっこいい外人。」

遠目でも分かるくらいその人の顔立ちは整っていました。

僕がそう思っていると、またもや突然隣にいた女子達から歓声が上がりました。
どうやら渋谷がその人の腕を掴んだようです。

「どうして歓声が・・・?」

思わず隣の女子に問いかけようとして手を伸ばしましたが、その手は冷たく叩き落とされました。

「いてっ!!」
叩いた女子生徒は悪びれた様子もなく前を見つめたままです。
仕方なく僕も、渋谷を見ることにしようと思ったら、ちょうど渋谷がその人の手を引いて歩き去って行く所でした。
渋谷の顔がどことなく赤く見えるのは気のせいでしょうか。

二人の姿が完全に見えなくなると、教室の中からはほぅっという溜息が聞こえてきます。


「あ、あのどうしてそんなに熱心に渋谷を見ていたんですか?」
その熱が冷めた頃、なるべく低姿勢で僕は問いかけました。
「分からないの」
「えっと、渋谷があのかっこいい人を連れて行ったから怒ってる、とか」
そう答えたと同時に鋭い目でにらまれました。
「ばかじゃないの?! 連れて行ったからいいんじゃない!!」
「はぁ?」


その後僕が何と言おうともその女子生徒は答えてくれず、隣の友達と話をして盛り上がっています。


次の日学校に来ると、何やら頑張ってと声を掛けられている渋谷を見かけました。



どうなっているんでしょう?





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