忘却と混迷の果てに 第一話
窓から陽光が差し込み、手元に影を落とす。
握り締めていたペンを投げ出すと、ユーリは机につっぷした。
「はぁ~なんでこんないい天気なのに部屋の中でじっとしてなくっちゃいけないんだよ・・・」
ピトリと頬に触れる机が温かい。
「こんな時コンラッドがいてくれたらなぁ~・・・」
仕事だと分かっていても、どうしてもそう思ってしまう。
「確か国境付近の村の様子見に行ってるんだよな。」
国境付近はよく小さないざこざや争いが起きる危険地帯というには少し言い過ぎ
かもしれないが、危険な場所には変わりなくて、毎月調査と称して、数人の兵士を向かわせていた。
だから、そんな所へ優秀な彼が行くのは当然妥当だろう。ましてや、滅多に頼みごとをしない彼の兄からの頼みであればなおさらだ。
でも・・・・
「陛下っ!!」
突如物思いに耽っていると部屋の扉が勢いよく開いた。
「先程お渡ししました書類の処理は終わられましたか?!」
「あ、し、書類?もちろんだよ。今最後の仕上げしてるとこ」
「さすがです陛下!このギュンター一生陛下について行きますっ!」
「ハイハイ。」
鼻水を流しながら感激しているギュンターを軽く受け流し、再びベンを握りしめて書類に向かう。
その時、
「陛下っ!!」
バタンと大きな音を立てて一人の兵士が駆け込んできた。
「なんですか挨拶もせずに入るなんて無礼な!」
「し、失礼しました!」
ちゃっかり自分のことは棚に上げてギュンターが叫ぶ。
しかし、兵士の蒼白した表情からただならぬ気配を感じたのかギュンターは表情を引き締めた。
「まぁいいでしょう。それよりどうかしたのですか?」
「あの・・・それが・・・」
ためらいながらも兵士はそっと口を開いた。
「コンラート閣下が・・・亡くなられました。」
「「!」」
―――――何を言っているんだ・・・・?―――――
言われた言葉に一瞬頭の中が真っ白になる。
「お、おいおい何言ってるんだよ。」
「詳しく話してみなさい」
冷静な声でギュンターが尋ねる。
真っ青な顔をした兵士はその言葉にゆっくりと口を開いた。
「村に着いた直後です。急に村の内部で争いが起きまして、コンラート様も鎮圧
の為駆け出して行かれました。しかしその途中一人の子供に矢が飛んでいくのを
目撃しまして、コンラート様はその子供を庇い矢を受けそしてそのまま後ろのガ
ケに・・・・・・」
そこまで言うと兵士は真っ青な顔をさらに青くしながらがたがたと震えだした。
「嘘だ。」
「陛下。」
「な、考えてもみろよあのコンラッドがそう簡単に死ぬわけないじゃん。な?」
そう言って視線を向けるが、誰もが無言でその視線から逃れるように下を向いた。
「本当ですよ陛下。」
突如扉の方から聞き慣れた声がしてユーリは視線をそっちへ向けた。
「ヨザック・・・・」
「あの時俺もあいつの近くにいました。助かるようにはどう見ても考えられませんでした。」
ヨザックが何の感情も篭らぬ声で、淡々と言葉を紡ぐ。
しかし、そのどれもがユーリの頭には残らず、そのまま通り抜けて言った。
そこに現れた姿をみただけで今聞いたものが全て本当だと分かったからだ。
「陛下っ!!」
突如バタンという音がして、皆が振り返ると床に倒れたユーリの姿があった。
―――――明日はなるべく早く帰ってきますね・・・―――――
昨夜のコンラッドの声が脳裏に浮かぶ。
―――――そしたらあなたを抱いてもいいですか・・・―――――
そう言って優しく抱いたあの腕には・・・・・・・もう会えない。
(07.4.09)
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