忘却と混迷の果てに 第二話
「兄上っ!」
重々とした扉が勢いよく開かれる。
金の髪を振り乱しながらウォルフラムはグウェンダルが座っている机までズカズカと歩み寄った。
「兄上・・・・・あの話は本当なのですか・・・?」
何の話だとは聞かずにグウェンダルは重々しく頷いた。
「・・・・コンラートが・・・。」
誰にも聞き取れないような小さな声でそう呟くと、ウ゛ォルフラムははっと顔を上げた。
「ユーリはどうしたんですか?」
「話を聞いて倒れた後部屋で寝かせてある。今はギーゼラが付いている。」
「そうですか・・・・・」
その言葉に一瞬ほっとした表情を浮かべるが、すぐに厳しい顔付きにもどる。
その表情をじっと見つめていたグウェンダルは、眉間の皺をいつもより多く刻み
ながら静かに口を開いた。
「私はこれから現地へ向かう。」
「!」
「当時の状況を確認してくる。」
いつもよりも苦渋に満ちたその表情は、少なからずそんな現場へ彼を行かせてしまったことに責任を感じているのだろう。
「私も連れて行って下さい!」
予想外の言葉に一瞬目を見張ったが、じっとその瞳を見つめ、それが強い意志によるものだと分かるとグ
ウェンダルは重々しく頷いた。
「・・・・・いいだろう。」
「俺も連れて行ってくれ!!」
「ユーリっ!!」
突如声が上がった方へと視線を向けると、そこには今頃はベットで寝ているはず
の姿があった。
「何をしてるんだ!体はもう大丈夫なのか?!」
「大丈夫だ。なぁグウェン、頼む俺も連れて行ってくれ」
駆け寄るヴォルフラムに返事をしながらも、厳しい表情を浮かべたままのグウェンダルの瞳をじっと見つめる。
数秒間室内に沈黙が落ちる。
「そこへ行っても酷な現実が待っているだけかもしれない。それでも行くのか?」
その言葉にユーリは強く頷いた。
「ちゃんとこの目で確かめるんだ。」
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辿り着いた先の村は異様なほど静まり返っていた。
「戦のあった後はたいていこうだ・・・」
ユーリの思考を呼んだようにウ゛ォルフラムが答える。
潰れた家屋、所々に飛び散った血痕。
それらを横目で見ながらも、一行は黙りこんだまま奥へと足を進めた。
「ここです。」
一際切り立った崖の上で先頭を歩いていた兵士が立ち止まった。
指されたた地面にはまだ新しいと思われる血が数滴こびりついていた。
そしてその数十メートル下には、川が轟音を立てながら流れている。
もしここに落ちたとしたら、絶対に助からないだろう。
ましてや、負傷した状態で落ちたとしたら尚更だ。
「ユーリ・・・・」
黙って傍らに立っていたヴォルフラムが心配そうに声をかける。
「大丈夫だ。ヴォルフラム。」
その未だ血痕の残る地面を見つめながら小さく呟く。
「大丈夫だ。」
自に言い聞かせるように、再び同じ言葉を紡ぐ。
「俺は王様だからどんな時もちゃんとしなくちゃいけないんだよな。」
「ユーリ・・・・・」
「大丈夫だ。」
そう言ってようやく上げた瞳は、どの色も写してはいなかった。
この日を境に血盟城から笑いが消えた。
何にも進展してませんが、一応ここでキリます。
次こそはコンラッドだす予定です。
(07.4.10)
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