魔鏡~遠い地で俺は再びキミに恋する~
「さぁ~って、何処に隠れっかなぁ~。」
両脇にズラリと並んだ扉を見ながら、ユーリはきょろきょろと視線を泳がせた。
この城に来てもぅ何ヶ月も経ったが未だに城の全貌は掴めない。自分の物覚えが悪いんじゃない。この城がでかすぎるのだ。
――――――それがコトの起こりの始まりだった。――――――
「か・・くれんぼ?なんだそれは?男かっ!?」
「男じゃないって、ヴォルフ。遊びだよ、遊び。」
急に午後にあった謁見が中止になってしまい特に何もすることもなくブラブラとユーリが暇を持て余していたところに、ヴォルフラムがタイミングよくやって来た。
しかし、何かしようと思ってもここには遊び道具なんて、アニシナさんの作った恐ろしすぎる道具や、グウェンのあみぐるみぐらいしかない。前者は度胸試しというという目的で幾分楽しめるが、後者は人形遊びには年をとりすぎた。82才が相手ならなおさらだ。
そこで思いついたのがかくれんぼだ。
「この城広いだろ?一回やってみたかったんだよな。かくれんぼっていうのはさ、単純に言えばどこかに隠れた人を、別の人が探し出す、っていう遊びなんだけど」
「そんなくだらないこと、誰がやるものかっ!!」
「まぁそういうなよヴォルフ。お前が勝ったら何でも好きなことしてやるからさ。」
「何でもっ?!」
この広さの城だ。まず見つかることはないだろう。
「・・・・・ま、まぁお前がどうしてもそれをしたいと言うのなら付き合ってやってもいいぞ。僕はお前の婚約者だからな。」
「よっしゃー、んじゃまずはヴォルフがオニね。あっ!オニって言うのは探す人のことな、んで30分経っても俺を見つけられなかったら俺の勝ち、見つかったら俺の負け。分かったな??」
「分かった。」
「んじゃ、100まで数えたら探すのスタートな。100だぞ、100。じゃあな。」
そう言って別れたのが数分前。そろそろどこかに場所をすえて隠れなければ見つかってしまう。
とにかくまずはヴォルフラムから離れようと廊下をひたすら歩いてきたのだが、こんな奥まで来たのはもちろん初めてで、視線の先は見たこともない扉がずらっと並んでいる。
ぺたぺたぺた。
歩いても歩いてもその先には以前扉が続いている。
いつまで経っても先の見えない廊下に少しずつ不安になりやっぱり引き返そうと踵を返した瞬間、視界の端に一つの部屋が映った。
どうやらそこが行き止まりらしい。
「・・・・・・部屋?」
ゆっくりと扉に近づくと、扉は僅かに開いていた。
「無用心だなぁ。」
そう呟きながらも真っ暗の部屋の中へと足を進める。部屋の中は不気味なほど静まり返っていた。
しばらくして闇に目が慣れてきて、辺りを見渡すと奥の方に、何か布がかかったものがあるのが目に留まった。
惹きつけられるようにそれに近づく。
ゆっくりと手を伸ばしその布に軽く触れると、するりと落ち、一枚の鏡が現れた。
「鏡?」
ゆっくりと鏡のふちの方を指でなぞると、埃がふわりと舞った。と、同時に頭の中に何か文字のようなものが浮かんだ。
これには身に覚えがある。
「・・・・もしかして。」
再びゆっくりと指を滑らす。やはり僅かだが凹凸が感じられる。そして、ゆっくりと脳裏に言葉が浮かぶ。
――――――汝の望みし時に、汝を導かん。――――――
「・・・・どういうことだよ。」
全ての言葉を読み終わってからユーリは呟いた。“汝の望みし時”か。つまり行きたい時に連れて行ってくれるというわけか。
ドラえもんじゃあるまいし、いけるわけがない。
そう言いながらも視線はすっかりその鏡の方を向いている。
「・・・・でも。」
本当にもし行けるなら・・・・・。
そう思うと同時に室内を光が覆った。
「まぶしっ!!」
あまりの眩しさに顔を覆うと同時に、急速な浮遊感が襲った。
数秒後、光が収まると再び室内に静寂が訪れた。
しかし、そこに人の姿は見えない。
ただ、あの鏡だけが不気味な色を放って輝いていた。