― 遠い存在 前編 ―



学校からの帰宅途中、突如聞こえて来たクラクションに拓海は足を止めた。

そして、隣に止まるなりスーッと下げられた車の窓から現れたのは・・・・、

「よ、藤原!!また会ったな。」
「・・・・・・誰でしたっけ?」

ボケーっとした表情で言われた言葉にズルっと肩を落とす。

「おまえなー藤原っ!!!」
「嘘ですよ。どうしたんですか?塚本先輩。」


――――もう会いに来ないと思ってたのに・・・・・・。


予想とは違う行動に驚いたが、次に聞こえて来た言葉に拓海は納得した。

「いや~それがさ、この前茂木とお前を乗せて赤城に行っただろ?その帰りからの記憶が何でか全く思い出せなくてさ。 確かお前に車を運転させてやったところまでは覚えてるんだけど・・・・・・・・どうしてだろ?お前なんか知ってるか?」
「いえ・・・俺は何も。・・・疲れて眠っちゃったんじゃないですか?」
「そうなのかな?まぁ、どーでもいいか。そんなことより、俺今日も赤城に行こうと思ってるんだけど、お前どうする?」

その言葉に、記憶がないと聞いてほっとしたのも束の間、ギクリと体がこわばる。

「あ・・・お、俺今日はちょっと・・・。」
「なんだよ、何か予定でもあるのか?」
「いえ・・・別に予定はないんですけど・・・。」

嘘をつくのも憚られ思わずそう答えてしまった。

「じゃあいいだろ?あれ・・・・そういえば茂木は今日はいないのか?」
「いませんよ。別にいつも一緒ってわけじゃないんですから。」
「そっか・・・・それは残念だな。でもまぁ、藤原だけでもいいや。俺の華麗のドライビング見せてやるよ。」
「い、いえ!!本当にいいです!!」

必死で頭を振る。が、目の前の人物にはそれが伝わっていないらしく、笑みを浮かべながら助手席の戸を開けた。


「遠慮すんなって!ほら、乗れよ。」


その姿にもう逃げられないと悟った拓海ははぁと溜息をつくと、小さく呟いた。

「・・・・・・・・・・・・安全運転でおねがいします。」

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



夜まで時間を潰し、ようやく頂上に着いた頃には既に赤城は人で溢れかえっていた。
「何だか今日はこの前より混んでますね。」
手持ちぶさたで買った缶コーヒーを手の中で転がしながら、周囲を見渡して拓海は口を開いた。

「ん?あぁ、そう言えばそうだな。何かあったのかな?ちょっと聞いてくるわ!」
そう言って駆け出すと、近くに知り合いの姿を見つけて駆け寄る。



「おい、何かあったのか?」
「塚本も来てたのかっ?!喜べっ!!!今日は高橋兄弟が来てるんだ!それも二人一緒に!!!」
「本当か?!!」
友人のその言葉に目を輝かせると、慌てて拓海の元へ駆け戻る。


「喜べ藤原、今もの凄いビックニュースを仕入れてきてやったぞ。」
「はぁ、何かあったんですか?」

大して興味もなさそうに答える。

「何とあの高橋兄弟が来てるんだっ!!」
「ぶっ!!!」

思わず飲んでいた缶コーヒーを噴出しそうになる。

「何変なリアクションしてんだよ。お前高橋兄弟に会ったことあるか?言ったかもしんねーけどものすげーカッコよくて、 ものすげー運転が上手いんだ。お前も会ったらきっと感動するぞー。」
「そ、そうなんですか・・・。その、先輩はあの二人と知り合いなんですか?」
「俺なんか知り合いになれるわけないだろ?!あの二人はクモの上の人物。話したことだってないよ。」
「そうなんですか・・・。」

その言葉にじっと黙り込む。

(やっぱ黙ってたほうがいいよな。 まぁ、これだけギャラリーいたらどうせ会っても分んないだろうけど)

そう結論付けると、嬉々として自分の前を駆けていく背を追いかけた。


□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■



「ふぅ・・・俺ちょっと休憩してくるわ。」
FDから下り、ふぅとため息をつくと啓介は金色の髪を掻きあげた。

と、すぐにその言葉を聞きとめたケンタが駆け寄ってくる。

「俺も!!俺も行きますっ!!!」
「お前はもう1本走ってこい。まだ全然走ってねぇだろうが。」

その言葉にシュンと肩を落としたケンタの脇を通り過ぎ、 人込みの輪の中を抜け比較的人の少ない道を歩いていると、啓介の視界に、見慣れた、 しかしここにはいるはずのない人物の姿が写りこんだ。

じっと見ているとその相手も振り返り視線が絡まる。

「お前は・・・・・・・・。」

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■




ギャラリーする為に二人は人込みの中よく見える位置を探して移動していた。
が、人込みに押されるうちに嫌気がさしてきた拓海が声を上げた。

「塚本先輩、もうここでいいですよ。人もいないし。」
「あ~っ?!何言ってんだ!!!だから素人は困るんだよなぁ~。こんなところ見ても面白くも何ともないんだよ。 本当の走り屋ってーのはなぁ、」

そう言って拓海のほうを振り返った瞬間、ふとその後ろに、ある人物の姿が視界に入り目を見張る。

「塚本先輩???」
「・・・・・・・・・・・」

不思議そうに尋ねる拓海の声も今の彼の耳には届かない。


整った容姿、すらりと伸びた背、闇の中でも目立つ黄色の髪。

自分とは180度違うあの姿は・・・・・、


―――た、高橋啓介~~~~~~っ?!!!!!


あまりのことに声も出せない。



そんな塚本の様子を不思議に思った拓海が、その視線の先を見ようと振り返った瞬間、 そこにいた人物に息を呑み、誰にも聞き取れないほどの小さな声で呟いた。


「け・・・・すけさん・・・・」


(07.10.29)






塚本先輩覚えてますか~?(笑)忘れてた人は9巻をみよう!


後編へ