「どうなっているんだ!!」
ダンっと壁を殴りつけて、ヴォルフラムは叫んだ。
「ユーリがいなくなって、もぅ5日も経ったんだぞ!」
「落ち着いてくれフォンビレーレフェルト卿。」
「落ち着いてなどいられるか!このままではユーリが帰って来られなくなってしまうだろうっ!!」
「まぁそうだろうね。」
肩を竦めながら村田は答えた。
「まぁ、確かに君の言うとおりそろそろ帰って来ないと、いかに渋谷の魔力が高かろうと危険だろうね。」
「ならっ!!」
「・・・・しょうがない、彼の力を借りるか。あんまり彼に頼るのは好きじゃないんだけどこの場合は仕方がないか。」
「・・・でも、僕だけが行ってもきっと渋谷は帰っては来ないだろうね。」
誰にも聞こえないほどの小さな声でそう呟くと、ゆっくりと村田はコンラッドの方へと向き直った。
「ウェラー卿。」
「・・・はい。」
「力を貸して欲しい。きっと僕だけじゃ渋谷を連れて来ることは出来ないから。」
どこか、寂しさを含ませたような口調で言葉を紡ぐ。
剣を握り締める力を強めて、コンラッドは深くそれに頷いた。
魔鏡~遠い地で俺は再びキミに恋する(7)~
「ユート・・・。」
ベッドに横たわるユーリの手を握りながら、コンラッドは小さく呟いた。
吐く息は荒く、額に浮かべられた汗が、今どれほどの苦痛がユーリを襲っているかを表していた。
―――― 一体どうしたんだというんだ・・・ ―――――
さっきまでは確かに、目の前で話していたというのに・・・。
脳裏に浮かぶのは、涙を浮かべながらただひたすらに自分に幸せになれと言った姿。
――――俺が守ったもの、か・・・・――――
そんなもの考えてもいなかった。ただ失ったものがあまりにも大きかったから。
俺の幸せなんて誰も望んでいないのだと、誰も俺が生きていて喜ぶ奴なんていないのだと思っていた・・・。
――――“俺は、コンラッドが生きててくれて嬉しいよ”――――
――――“もし自分の為に幸せになれないって言うんなら、俺のために幸せになってよ”―――
ユートの言葉が脳裏に蘇る。
この言葉を聞いて、死ぬのをやめた。
この言葉を聞いて、幸せになることを許されたような気がした。
「ユート・・・。」
――――何故、こんなにも君は俺を救ってくれるんだ・・・――――
目を閉じて横たわる黒髪の少年を見つめながらコンラッドは問いかける。
何も言わずにユーリは瞳を瞑ったままだ。
浮かべる表情は何処までも険しい。
――――俺に何が出来るだろう・・・――――
辛そうに眉をしかめるユーリを見ながら、コンラッドはぎゅっと手を握った。その時、
「こんなところにいたのか。」
「誰だっ!!」
突然背後から声がして、振り返った先に居たのは目の前で眠る少年と同じく漆黒の髪を持つ少年と、全身をフードで覆った男の二人組みだった。
「まぁ、そんなに警戒しないでよ。別に危害を加えようと言うわけじゃあないんだし。」
「一体何の用だ。」
背後のユーリを庇うようにコンラッドが立ち上がる。
「君が今その背に守っている彼を引き取りに来た。」
「・・・・・っ!!」
まっすぐに述べられた言葉にコンラッドが息を呑む。
「彼は、この世界に居るべき存在じゃない。 だから彼を連れ戻しに来た。」
「何を言ってるんだっ・・・!」
その言葉にコンラッドが警戒を強めた時、
「む・・らた?」
はっとした表情でコンラッドは声がした方を振り返った。
「やぁ、渋谷。」
「・・・な・・んで、お前がここに・・」
「キミを迎えに。」
「・・・・・っ!!」
ユーリが息を呑む。
「分かってるんだろう?君のそれはただの疲労じゃない。魔力の使いすぎだ。早くしないと手遅れになる。」
「・・・・だ。」
「えっ?」
「いやだって言ったんだ!! 俺は絶対に帰らないっ!」
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