第二話~再会は青の中で~ 




「やっぱ見られてたよなぁ・・・・・」
とぼとぼと河川敷を歩きながらユーリはあの後から何度目か分からないくらいの溜息
をついた。

脳裏をよぎるのはフェンス越しに見えたあの冷めた瞳。

「うぅ、絶対変な奴だって思われたよな・・・・・・。」

頭を抱えながら足を進めていると、ふと前方の橋の上にいる人物を視界に捕らえてユーリはピタリと足を止めた。


―――――あれは・・・・・・っ!――――――


それは間違いなく先ほどまで自分が頭を悩ませていた張本人だった。

「ど、どうしよう・・・。」

帰るためにはあの橋を通らなければならない。ということは必然的に彼と会わなければならないということで・・・・・。

う~ん、と頭を悩ませているとふと、視界の人物が橋の手すりから身を乗り出した。


「なっ・・・・・・!!」



――――――も、もしかして自殺???!――――――



ありえないと思いつつも脳裏をよぎるのは何もかもに冷め切った冷たい瞳・・・・。



――――――あ、ありえる・・・・。――――――



ヒヤリと冷たい汗が背中を伝う。気がつくと、ユーリは無我夢中でその橋へと向かっていた。



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「やめろっ!!何があったかは知らないけどはやまるなっ!!」
橋の上へ着くなり、ユーリはすぐさまがしっと青年の腰を掴んだ。
「君は・・・・・。」
「知ってるか?!親より先に死ぬのは最大の親不孝なんだぞっ!」
「・・・・・・・・。」
「まだ人生長いんだからこんなところで見切りつけんなよ。おふくろさんだってアンタが死んだら悲しむよ。だから、はやまるなっ!!」

腰にしがみ付いたまま何度も早まるなと口にする少年に不思議げに見ると青年は、ポツリと呟いた。


「・・・・・何を勘違いしているのか知らないが、俺は別に死のうとしていたわけじゃない。」
「え・・・・・・?」


そう呟くと視線をすっと川の下流へと向けた。

「持っていた石のペンダントが落ちてしまって拾おうとしていたんだ」
「えっ?!ご、ごめんっ!俺てっきりアンタが死のうとしてるのかと勘違いしちゃって・・・・そうだ、ペンダントは?!」
真っ青にな表情で川に視線を移すユーリとは対照的に、青年はどこか冷めた表情を浮かべた。
「ここは流れが早い。きっともう流れていってしまっただろう。・・・・・もういいんだ、こういう運命だったんだろう」

どこか冷めた口調でそう呟いて視線を戻すと、先程の少年の姿がどこにもなかった。

「どこに・・・・・・」
視線を辺りに巡らすと、すでに川の縁まで下りている少年の姿が目に入った。

「なっ・・・・・・!!」

その様子を視界に捉えるとともに、すぐさま青年も川の縁へと足を進めた。


***********************


「何をしているんだっ…!!」
川の縁まで来ると、すでに水につかっているユーリへと声を荒げて呼びかけた。
「何ってあんたのペンダントを探してるんだろ?」
ばしゃばしゃと水中から目を逸らすことなくユーリは答えた。
「いいんだあんなものは。たいしたものじゃない。だから早く上がってこいっ!!」
その言葉にユーリがきっと視線を上げた。
「何言ってんだよ!思わず川に飛び込もうとするくらい大切な物なんだろうっ!!」
「・・・・・・・・。」
「あれ?そういえばどんなペンダントなんだそれって??」
今更のような質問に青年は呆れたように小さく溜息をつくとポツリと言った。
「・・・・・・青い石だ」
「青か、俺の好きな色だよ、・・・・・んっ?」
何か視界にキラリと光るものが映り、ユーリがそれに手をのばしたとき。

「うわぁっ!!」

ユーリの体がグラリと傾き水中に大きな水しぶきを上げて倒れこんだ。


「ちっ・・・・・!!」
小さく舌打ちすると青年も水の中へと走り寄った。



***********************



「大丈夫かっ?!」
水中で流されかけていたユーリを掴み、肩に担ぎながら川岸まで上がると、青年は問いかけた。
「・・・・・だい・・じょう・・ぶ。」
その言葉にほっと溜息をつくのも束の間、すぐさま青年は厳しい表情を作った。
「だいたい、いくら浅いといったってあんな流れの速いところに・・・・っ!!」
青年が言葉を紡ごうとしたとき、眼前にぐいっとユーリの手がさし伸ばされた。


「これは・・・・・・。」

ゆっくりと開かれた手のひらの中には、青い石のペンダントが握られていた。


「・・・・さっき、転んだ時に見つけたんだ。」


差し出されたペンダントをゆっくりと手に取ると、ポタリと雫が一滴滑り落ちた。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「大事なものはちゃんと持ち主のところに戻って来るんだよ。」
呆然としたままの青年にユーリがそっと言葉を掛ける。
「もぅ無くすなよ。」
ぽんっと、肩を叩きながらユーリはにかっと笑った。



「・・・・・・・・君は」
数秒間の沈黙の後、青年はゆっくりと口を開いた。
「うん?」
「今日校舎のはずれで告白されていた子だろう。」
「うっ・・・・!!」



―――――わ、忘れてた・・・・っ!!―――――



「いや、あれは・・・・っ!!」
「何ていう名前なんだ?」
「へっ?」
「君の名前が知りたい。」

まっすぐに向けられた視線に、思わず顔を背けるとユーリはポツリと呟いた。

「・・・・・・渋谷有利。」
「ユーリ・・・・・。」
ゆっくりと大事そうに青年が名を紡ぐ。


「お、俺今日もう帰んなくっちゃ!!」

何故だか全身に血が上るのを感じ、ユーリは急いでその場を去ろうとした。すると、がしっとその手を握られた。
「な、何??」
「・・・・・・いや。」

名残惜しげに手を下ろす。

「何でもない・・・・。」
「じゃ、じゃあ俺もう行くから!!」
そう言い残すと、ユーリは足早にその場を後にした。




その背が見えなくなるまで見つめた後、ふと鞄が一つ草むらに落ちているのに気がついた。
それを大事そうに拾い上げると、青年はゆっくりとペンダントを首に下げた。

再び戻った石は少し青みがかったように思われた。



次回、コンラッド待ち伏せをする、です。何だかコンラッドユーリに既にメロメロです・・・。



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