第七話~ 白のジュリア ~
「で、僕に聞きたいことって何なんだい?」
放課後の人気のない屋上に着くなり、村田健は怪訝そうな声を上げた。
「ジュリアって名前・・・・・・村田聞いたことある?」
「ジュリア?もしかして白のジュリアのことかい?」
「知ってるのか?!」
「そりゃあ、一応。有名だったからね彼女は。」
「有名って、どんな風に?!!もしかしてコンラッドと何か関係があるのか?!教えてくれっ!!」
珍しく切羽詰った友人の声に少なからず驚く。
「教えてもいいけど・・・・・どうして突然彼女のことなんか知りたくなったんだい?理由ぐらい教えてくれないか?」
その質問にほんの少しの逡巡の後、ユーリはゆっくりと昨日あったことを話し出した。
「・・・・・で?そのままウェラー卿との約束もすっぽかして逃げ帰ってきたっていうわけかい?」
一通りのことを聞き終えた後、村田は呆れたように手すりに背を預けた。
「別に逃げ帰ってきたわけじゃねぇよ。ただなんとなくコンラッドに会うのが気まずくてだなぁ。」
「それを逃げたって言うんだよ。」
「う゛・・・・・。」
「まぁ、大体の事情は分かったけど、どうしてスザナ・ジュリアをそんなに気にするんだい?」
「いや、何でって・・・そんなの分かんねーけど・・・・ただ気になったんだよ」
「ふ~ん・・・・。」
どこか呆れたような表情で隣に立つ友人を見つめる。
「どうして、こんなに気になるのか本当に不思議なんだけど、」
「どうしてなんて、本当はもう分かってるんだろ?」
「えっ?」
「まぁ、初恋の相手が男だったら認めたくないっていう気持ちもあるのかもしれないけど、」
「何意味のわかんないことブツブツ言ってんだよ。」
そう言ってジトっと見てくるユーリの目に視線を合わせると、村田はあっさりと言った。
「ウェラー卿のことが好きなんだろ?渋谷は」
「なっ・・・!!」
「違うのかい?」
きょとんとした目で問いかけてくる友人に、「違う!」と叫ぼうとしたが何故か言葉が出てこない。
(俺がコンラッドを・・・好き?)
ありえない、と頭の隅で声がする一方で、
コンラッドに会うたびに何故か胸がどきどきしたこと、
ジュリアという名前を聞いた時、何故か胸が張り裂けそうな程痛かったことが次々と蘇ってきて、
「・・・・そう、なのかもしれない。ってうわーこんなこと言わせんなよな、村田っ!!」
―――――うわー見たこともないくらい真っ赤になってるよ。
こりゃあウェラー卿じゃなくても落ちるね。
頭を抱えて唸っているユーリを見ながら一人胸中で呟く。
「何だよ。」
「別にぃ。」
ジロリと見てくるユーリから視線を外すと、村田は手すりの向こう側へと視線を向けた。
「まぁとにかく一応僕が知ってることは話してもいいけど、やっぱり詳しいことはウェラー卿に直接聞いたほうがいいんじゃない?」
「でも、」
「なんだい?」
「答えてくれなかったらどうしようかと思って・・・・。。」
しょんぼりとした表情を浮かべるユーリに思わず苦笑がもれる。
―――――まったく渋谷をここまで落ち込ませるなんて、ウェラー卿もやるなぁ
「ばっかだなー渋谷は。もっと自分に自信持てよ。僕の知ってる渋谷有利原宿不利はもっと前向きなやつだったぞ!」
「いや、原宿不利はいらないから」
「それに、迎えも来たみたいだしさ」
「えっ?」
そう言って村田が指差す方向を見てユーリは息を飲んだ。
「・・・・・・っ!!!!」
そしてそのまま何も言わずにドタバタと音を立てて階段を下りて行く。
その様子を見つめながら村田は小さく笑った。
「これで上手くくっつけばいいんだけど」
それにしても、と小さく呟いて、彼にしては珍しく眉間に皺を寄せた。
「白のジュリアか・・・・・――――――」