~かぐや姫 中編~
夕日が沈むころ、渋谷家には続々と人々が集まり始めていました。
「あぁ、なんでこんなことになったんだ・・・・・。」
ベランダからその様子を伺っていたゆーちゃんは思わずため息をつきました。
その時です、ふと下に止められた車の傍に立つ一人の青年と目が合いました。
「うわっ!!」
突然のことにビックリして思わずゆーちゃんはベランダの影に隠れてしまいました。
「って、なんで俺隠れてんだろ?」
不思議に思いながらも、ゆーちゃんは今見た男の人のことばかり考えていました。
揺れる琥珀色の髪、銀の虹彩が散ったような不思議な瞳。
「ゆーちゃん!!もう皆さん来られたわよっ!」
「あっ、今行くっ!!」
――――まぁ、俺には関係ないしな。忘れよ――――
そう思い、振り切るようにその場を後にしたゆーちゃんでしたが、しかし、その後も頭の中から彼が消えることはありませんでした。
*
「じゃあ、右側の方からご紹介するわね。」
そう言って、美子さんは正面に座っている人物を順番に紹介し始めました。
「こちらが、ヴォルテール国から来られた、フォンヴォルテール卿グウェンダルさん。そしてこちらが、ビーレフェルト国から来られたフォンビーレフェルト卿ヴォルフラムちゃん。
そして最後がクライスト国から来られた、フォンクライスト卿ギュンター様よv」
「・・・・・・・・・・ど、どーも。渋谷有利です。」
居並ぶ人々の姿に思わずゆーちゃんの声も小さくなってしまいます。それもそのはず、ゆーちゃんの婚約者(仮)は皆、信じられないくらいの美形ばかりだったのですっ!!!
「え、えーと、皆さん自分達の国と同じ名前が入ってるんですね。」
「それはそうよ、皆さん王族でいらっしゃるものv」
「お、お、お王族ぅ~~?!!」
「もちろんvここに居られるのは厳重なオーディションを受かった方々しかしないのよ。そうしないと、家に入りきらないほどだったんだから」
「王族がなんでこんな普通の野球小僧に・・・?」
ゆーちゃんは不思議そうに首を傾げました。まだゆーちゃんは自分の魅力に気が付いていないのです。
「えっと、おふくろ、その、これで全員なのか?」
「え? えぇ、そうよ。」
「そっか・・・・。」
――――――さっきの人は誰だったんだろう・・・・――――――
ゆーちゃんはまだ先ほど見た男の人が忘れられないようです。
「あの~・・・・せっかく来てもらって悪いんですけど、俺、実はまだ誰とも結婚する気なんてないんです。」
その言葉に、一番初めに動いたのは、フォンクライスト卿ギュンター、通称ギュンギュンでした。
「なななな、なんですとっ?!!」
ギュンギュンは、素早くゆーちゃんの手を掴むと、それに頬ずりをしながら色男台無しの情けない声を上げました。
「陛下は、陛下はわたくしがお嫌いなのですかっ?!!私に至らぬ点があればなんなりと!陛下の為ならこのじゅくじゅく水虫さえも直して見せますともっ!!」
「えっ?!!と、とにかく水虫は治したほうがいいと思うけど、それより今俺のことなんて言った?ヘイカ??」
「はっ!!!すいません。私としたことが取り乱してしまいました。陛下というのは我が国で自分が一番愛おしいと思う人をそう呼ぶ習慣があるのです。」
「い、愛おしい・・・・。」
「ええいっ!!いい加減に離れろっ!!いい年をして恥ずかしくないのかっ!!!」
そう言って二人の間に割り込んできたのは、金髪の美少年、通称わがままプーでした。
「えっと・・・、キミは?」
「ヴォルフラムだっ!!すぐ覚えんかっ!このへなちょこがっ!!!!」
「へ、へなちょこ言うなーーっ!!」
そんな様子を眉間に皺を寄せながら見るのは、フォンヴォルテール卿グウェンダル、またの名を、永遠の被害者、具・上樽。
「あらあら早速楽しそうねぇvv」
少し離れた位置で美子さんは一人楽しそうに笑っていました。
「と、とにかく俺は今誰とも結婚する気なんてないから、帰って下サイ。」
「そんなぁ、陛下!あんまりですっ!!」
「そうだ、せっかく来たというのに、恥ずかしくて手ぶらで、帰れるかっ!!」
「・・・・・・と、言われてもだなぁ。」
その時です、ゆーちゃんの頭の中にとてもいい考えが浮かびました。
「そうだっ!! んじゃあ今から言うものを持ってくることが出来た人と結婚しようかな?」
「なんだそれはっ!!!!」
「まず、ヴォルフラムには見たもの全てを泣かせる、幻の絵画っ!!」
「ま、まぼろしの絵画??」
「次にグウェンダルには、既に絶滅したと言われている幻の猫、にゃんこっ!!」
「にゃ、にゃんこ・・・・・・っ!!!」
「最後、ギュンターは、どんな人の鼻炎もたちどころに治してしまう、幻の薬、鼻水ストッパっ!!!」
「ストッパっ!!」
「これらを、明日の夜まで集めることが出来た人と、俺は結婚するっ!!」
その言葉に、全員が目を輝かせました。
「ようし、その言葉覚えておけよっ!!!」
「陛下、必ずやこのギュンターが陛下の為に、必ずや、ストッパを・・・っ!!!」
「にゃ、にゃんこ・・・・っ!!!」
そういい残すと、誰もが時間が惜しいとばかりに四方へ駆けて行きました。それぞれの思惑を胸に秘めて。
「はぁ~・・・。」
誰も居なくなった部屋で、ゆーちゃんはようやく肩から力を抜きました。
「気分転換に散歩でもしてくっかな。」
そう思い立つやいなや、ゆーちゃんは家を飛び出しました。
夜の公園はしんと静まり返り、煌く月光が辺りを照らしていました。
隅にあるベンチにそっと腰掛けると、ゆーちゃんは頭上で輝く月を見上げました。
その時です、
「何をしているんですか?」
「うわっ!!・・・・・・って、あんたは」
いつの間にか背後に立っていた青年の姿に思わずゆーちゃんは息を呑みました。それもそのはず、
そこに立っていたのは今朝見たあの青年だったのです!
「また会いましたね。・・・・・・隣いいですか?」
「うん。」
「月を見ていたように思いましたが、どうかしましたか?」
「・・・・・・・・」
「言いたくないなら構いませんよ。」
フワリと頭を撫でられて、ゆーちゃんは思わず真っ赤になってしまいました。それほど、その男の人はかっこよかったのです。
「さ、今日はもう遅いから帰ったほうがいい。送りますよ。」
「すぐ近くだから大丈夫。あのさ、その、あんたの名前は?」
ダメだったら別にいいんだけど、というゆーちゃんの言葉に青年はふわりと微笑を浮かべました。
「コンラート・ウェラーです。」
「コンラッド?」
「あぁ、そちらの方が言いやすかったらそれで構いませんよ。友人の中にはそう呼ぶものもいます。」
「なぁ、コンラッド、明日も会えるかな?」
「会えますよ。あなたさえよければ今日と同じ時間ここで待っています。」
「うん。じゃあな、コンラッドっ!!!」
そう言って、ゆーちゃんは家の方へと駆けて行きました。誰も見たことのないような嬉しそうな顔をして。
*
次の日の夜、渋谷家にずらっと並べた品物にゆーちゃんは思わず、目を見開きました。
「こ、これは・・・・・・っ!!」
「ふふん、どうだっ!!見るものすべてを泣かせる幻の絵画だっ!!」
そう言って、ヴォルフラムは一枚の絵画を開きました。
「な、なんだよコレっ!! こんなたぬきだか人間だか分かんないような絵が幻の絵画のわけ・・・・・・くさっ!!!!」
「ふふん、どうだ。この絵の具には、我が国にしかいない特定の動物からしか取れない特別な原料を使っているんだ。どうだ、あまりの達筆ぶりに涙がでるだろう?」
「涙は出ることは出るけど、これはその絵があまりに臭いからだっ!!! もういいっ!!ヴォルフラムはあと回しだ、次っ!!
グウェンダルっ!!・・・・・ってグウェンダルさん??」
「む・・・・・・・。」
そう言ってグウェンダルは一匹の子猫を、ユーリに抱き上げてやりました。
「いや、あの、これはどっからどう見ても普通のミケ猫にしか見えないんですけど・・・・・」
「あぁ、普通の猫だ。しかし私にとってはどれもが特別な、」
「次っ!ギュンター!!!」
「はいっ!!!」
「これはわたくしの娘が考案した、どんな鼻水でも、止める超鼻水ストッパですっ!!!これさえあればどんな鼻水でろうと・・・・・・・ぶひゃんっ!!」
「止まってないじゃん。。」
がっくりと肩を落としながらもゆーちゃんは自分の予想通りにいったことにニヤリと笑を浮かべました。
「よし、全員俺の言ったものを持って来れなかったなっ!!と言うことで、この話は終わりっ!!!おつかれさまでした。気をつけて国に帰って下さいねぇ~」
そう言って、ゆーちゃんは皆さんに手を振りましたが、そう簡単にことは収まらないようです。
「ええいっ!!!こんな無礼が許されるかっ!!!もういいっ!!!とにかく僕と一緒に来るんだ、ユーリ!!」
「ずるいですよっ!ヴォルフラムっ!!! さっ、陛下わたくしと一緒に参りましょうっ!!」
「ユーリの手を離せっ!!全く自分の年を考えろ、年をっ!!」
「あなたこそ、そんなわがままプーの分際で、陛下の手に触れるなんて許しませんよっ!!離しなさいっ!!!」
「あー、もうっ!!!!!」
ぎゃあぎゃあと喚く外野にとうとう痺れを切らし、ゆーちゃんはバンっと机を叩きました。
「こうなったら本当のことを言うよ! お袋にも黙ってたけど、実は俺、この国の人間じゃないんだ。」
予想外の言葉に思わず美子さんを始め、その場にいた全員が目を見開きまた。
「次の十五夜、つまりは明後日に月から迎えが来る。だからそれまでしか、この家にいられないんだ。だから、結婚なんて誰ともできないんだ。」
信じてもらえないかもしれないけれど、と言ってゆーちゃんは俯きました。
「ゆーちゃんっ!!!」
「はいっ?!」
突然その両肩を美子さんに掴まれて、ゆーちゃんは顔を上げました。
「どうして、そんな大事なこと今まで黙っていたのっ?!」
「ごめん。何度も言おうと思ったんだけど、言えなかったんだ。」
そう言って再びゆーちゃんは俯いてしまいました。
「もう、何のために、母親がいると思っているのよっ!!親はね子供を守るためならなんでもするのよ。見てなさい、ハマのジェニファーと言われたママの勇士をっ!!」
「はっ?」
思わず見上げた美子さんは滅多にないくらい生き生きとした表情をしていました。
「月との全面戦争ねっ!!!いいわ~久々に血が騒ぐわ!!!」
「そういうことなら、我々の国の軍の力も貸しましょう。」
「ありがとうVV」
「あの~皆さん??」
横で首を傾げるユーリもなんのその、4人はいそいそと月との対決に備えて戦略を練り始めました。
「さぁ、月星人よ、どこからでもかかってらっしゃいっ!!!!」
つづく
もう何がなんだか自分でも・・・・・意外に長くなってしまって。。。最後までお付き合いして頂けたら幸いです(06.9.17)