++心奥の真実 2++




「コンラッド・・・・・・・。」

小さく呟かれた言葉は人々のざわめきによってかき消された。




「一体なんの騒ぎなんだ?」
隣に立つ兵士に問いかける。

「はっ!この者は魔王陛下暗殺のために血盟城に侵入した賊と思われます。」

その言葉を聞くと、コンラッドはようやくユーリの方へと向き直った。

「・・・・・・。まだ子供じゃないか。」

呟かれた言葉に失望感が押し寄せる。



―――――やっぱりコンラッドも俺のことが分からないんだ。――――――



先程ダカスコスに知らないと言われたときの何十倍もの胸の痛みがはしる。

「本当にこの者が魔王陛下を暗殺しようとしたのか?誰が第一発見者だ?」
「私です。」
「ダカスコスか。それでこの者が何をしようとしているのを見たんだ?」
「あの、その、廊下でぶつかった時に、魔王陛下を語りましたので・・・。」
「それで?」
「・・・・・。」
「それだけなのか?」
「・・・・はい。」
はぁと盛大なため息をついてコンラッドは額に手をやった。
「そんな者城下に行けば山ほどいるだろう。魔王陛下の真似をして遊んでいる子供たちが。」
「こいつはどう見たって80は超えてますよっ!?」
「魔王陛下に憧れる者は大勢いる。それだけ魔王陛下が民に指示されているということだろう?」
「・・・・・・。」
「しかしまぁ、お前が考えた意見もありえないとは言えない。」


そう呟くと、今まで見たこともないような冷たい目をコンラッドは向けた。


「・・・・っ!!」
「キミは魔王陛下を暗殺するためにこの城に来たのか?」



――――どうしてっ!!――――



「どうなんだ?」
コンラッドの瞳が鋭さを増す。



―――― 一体何が起きてるんだっ!! ―――――



「・・・答えられないのか?」

もう何が何だかわからなくてとにかく首を振った。

「キミは魔王陛下を暗殺するためにこの城に来たんじゃないんだな?」

こくりと首を縦に振る。

「・・・・そうか。」

それだけ聞くとコンラッドはすっと立ち上がった。


「お前たちも聞いただろう?この者は魔王陛下を暗殺しに来たんじゃない。」
「嘘かもしれませんっ!!」
いつになくムキになってダカスコスは食い下がった。だがそれに怯むことなくコンラッドは言った。

「俺には彼が嘘をついているようには見えない。」

そしてようやく和らげた視線をユーリに向けた。

「驚かせてすまなかったな。誰かこの者を門のところまで連れて行ってくれ。」

コンラッドが言うなり両脇を兵士達に捕まれ、門のところまでズルズルと引っ張られていった。

「ちょっと!おぃ!離せよっ!!」
「大人しくしろっ!!」

助けを求めるようにコンラッドの方を振り返るが、すでにコンラッドは背中を向けて歩き去っていくところだった。

「・・・・・・。」
「んっ?急に大人しくなったな。」

全身を失望感がよぎり、体に力が入らなかった。




「ほら、もう入ってくるなよ。」

ほぼ投げ出される形で城外へ放り出されると、重い音を鳴らせて、門が閉まった。


「一体何がどうなってるんだ。」


重く閉ざされた門は、何者の言及を阻むように押し黙ったままだった。




「これからどうすっかなぁ・・・。」

よくよく考えてみると今の状況は非常にマズい状況だった。食料もなければ、着替えもない。唯一の救いはポッケットに入っている昨日城下へ行った時に残ったお金だった。でも、これもどこかの宿で一泊しただけですぐになくなってしまうだろう。
「とにかく町に行って腹ごしらえだ。」

太陽はすでに頭上を越えていた。



++++++++++++++++++++



町はいつものようににぎわっていた。だが、やはり違ったのは町の人たち全員が自分のことを忘れているということだ。



「おばちゃん久しぶり!!」
久しぶりに訪れた食堂で店主のおばちゃんに声をかけた。このおばちゃんはすごく豪気な性格でいつもコンラッドと訪れると、いろいろな食べ物を奢ってくれた。
それを目当てにしていた訳ではないがすこしは期待があっていったのは確かだ。 だが、目の前の店主は怪訝な顔をするだけだった。
「ごめんねぇ、ボク。人の顔を覚えるのは得意なハズなんだけど。ちょっと思い出せないんだけどねぇ。ここに来てくれたことがあったのかい?」


―――――何度も来たよ。―――――


胸の中ではそう呟くが、口からでたのは違う言葉だった。

「・・・いや、ごめん、間違えちゃったみたい。ちょっと知り合いの人に似てて。」

それを聞くと店主はほっとした表情を見せた。
「そうかい。もぅ物忘れが始まっちまったのかと思って焦っちまったよ。さ、何を食べるかい?坊やみたいなかわいい子には特別に今日はおばちゃんが奢ってあげるわよ。」
少しおどけて言う店主に力なく微笑むと、ありがとうとお礼を言って、少し遅めの昼食にありついた。





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