「コンラッドも俺を捕まえに来たのかっ!!」
怒りで肩が揺れる。
「コンラッドも俺が、間違ってるっていうんだろっ!」
「何を言っているんだ。」
コンラッドが不思議そうな表情で見下ろしてくる。
「どうせコンラッドも俺を信じないんだろっ!!」
頭の奥では冷静になれという警告が発せられる。だけど、そんな余裕はもうない。
「コンラッドも、ヨザックも、誰も俺の言うことなんか信じられないんだろ?!」
かっこ悪くても、迫力がなくとも、溢れ出す涙は止められそうにない。
――――――――俺が何を言おうとも、誰も信じてくれない・・・・――――――――
ましてやそれが自分が全面の信頼を置いていた人ならなおさら胸に響くのは鋭い痛み。
「俺は信じられないんだろっ!!」
心をすり切る様に叫ぶと同時に柔らかな腕に抱きしめられた。
――――――――え?
「もうそれ以上泣かないで。」
何か言葉を発するよりも早くコンラッドが耳元で囁いた。
「何があったのかは知らないけど、これ以上泣かないで。」
自分でも不思議なほどにコンラッドの声は切実な響きを持っていた。
「信じるから。」
無意識のうちに言葉が紡がれる。
「キミが誰であろうと、俺はキミのことを信じるから。だから、」
泣かないで、と消え入りそうな声でコンラッドは訴える。
何が起こっているのか、現状が上手く掴めずに、一瞬固まったユーリであったが、抱きしめられた腕の温かさに自然と涙が溢れてきた。
それは、さっきまでとは違う、暖かな涙であった。
「それでキミはこの城に来たのか。」
あの後落ち着きを取り戻したユーリは、ぽつりぽつりと今までのことを話し始めた。
「・・・・・信じられないだろ?」
「どちらかといえば。」
ユーリの肩が大きく揺れる。
「やっぱりっ・・・!!!」
「誤解しないでくれ。どちらかと言えば信じられない話であるけど、信じないとは言っていない。」
コンラッドが真剣な表情で見つめ返す。
「さっき言ったはずだ、キミを信じると。」
「俺はきみを信じる。だからきみも俺を信じてくれ。」
浮かべられた表情に嘘がないことを読み取ると、ユーリはこくんと首を振った。
「ありがとう。」
ふわりと浮かべられた微笑は自分がよく知るもので、ユーリはようやく肩の力を抜いた。
「そうと決まれば今の魔王陛下に会いたいんだけど。協力してくれるんだろ?」
全快とまではいかないけれども大分いつもの調子が戻った様子でユーリは問いかけた。
悩みもせずにコンラッドはそれに深く頷いた。
「どこにいるか知ってるか?」
問いかけられた言葉にコンラッドは静かに首を振った。
「俺も朝から姿を見ていません。気にするなという命が出でいたので。先程見てきましたが部屋の方にも。」
「どこに行ったんだ?」
早くもぶちあったた疑問に頭を悩ませていると、コンラッドがはっとしたように頭を上げた。
「そういえばさっき謁見の間の辺りに兵士がうろうろしているのを見ました。」
その時は遠くから聞こえてきた騒動に意識を奪われてしまって何も追及することが出来なかったけれど。確かにあれは何かを守っているように立っていたように思われる。
「謁見の間かぁ。とにかく動かなきゃ何も始まらないな。行ってみよう!」
勢いよく立ち上がるとユーリは手を差し出した。
「行くぞコンラッド!」
しっかりと差し出された手を握る。
その手をとることも、彼が自分の名前を呼ぶことも、全てが自然なことのように思われたのは、きっと偶然なんかじゃないだろう。
「ここだな。」
重く閉ざされた扉の前にたつと思わずごくりと喉がなった。
「よし、入るぞ。」
そっと扉に触れる。その時、
「危ないっ!!」
横からの強い衝撃でユーリは地面に倒れこんだ。するとさっきまで自分が立っていたところに剣が振り下ろされる。
「なっ!!」
気がつくと背後には何人もの兵士が取り囲んでいた。
目の前でキィンという音と共に火花が散る。
「コンラッドっ!!!」
目の前でコンラッドが庇うように剣を受けている。
「行ってください。」
受け止めた剣を片手で横に振り払う。と、同時に相手が吹っ飛ばされ動かなくなる。気を失ったようだ。
「ここは俺に任せて。」
次から次へと、兵士達はやって来る。
「でも・・・・っ」
「行ってください。ここは大丈夫ですから。」
振り下ろされた剣を両手で受け止める。
「俺を信じてください。」
「・・・・・・・。」
なおも戦闘が続く中ユーリはゆっくりと立ち上がった。
「負けるなよ、コンラッド」
コンラッドが小さく頷く。
「信じてるから。」
ぎぃぃぃという音を響かせて重い扉が開く。
「うわっ!!」
足を踏み入れた瞬間に室内に眩しいほどの明かりがともされる。
「ようこそ、魔王陛下。わが城に。」
王座から厳かな声が響き渡る。
「お前がっ・・・!!」
明かりに照らされたその人物は自分とそう変わらないくらいの少年だった。
口元には微笑が浮かべられている。
見るものを嘲る様な、そんな微笑だ。