When you lose it...  第2話



「・・・ら・・・わら、・・・藤原!」

強く名を呼ばれはっと我に返る。
と、同時にどこか心配そうに自分を見る涼介と目が合う。

「聞いていたか?」
「あ・・・、すいません・・・聞いてませんでした。」
そう謝ってから、改めて自分がDの遠征先へ来ていたのだということを思い出し、意識を集中させる。
「まぁいい。とにかく今から藤原と啓介にはコースの下見もかねて軽く5、6本流してもらう。その後マシンのセッティングを考えるから一旦上に戻ってきてくれ。」
「分かった。」
「!」
頷こうとしたとき、直ぐ後ろから啓介の声が聞こえてきて、思わず拓海の体が硬くなる。

「藤原?」
その様子に涼介が不思議そうに尋ねる。
「あっ、はい。大丈夫です。分かりました。」
慌ててそう答えると、どこか逃げるようにハチロクへと向かう。



―――――――――ダメだ、こんなんじゃ。集中しないと・・・・・



しかし、そんな考えもそのすぐ後に聞こえてきたロータリーエンジンの音に掻き消される。


「・・・・・・・・・・・・。」


はぁと小さくため息を吐いて、どこか暗い表情でハチロクに乗り込む。


その背を涼介だけがただじっと見つめていた。


****************



――――――――――2、3・・・・今何本目だっけ・・・



いつもならステアリングを握れば大抵のことは忘れて、走ることに没頭できた。
なのに今回はどんなに忘れようとしてもあの日のことが脳裏を過り、ズキリと胸が痛む。


と、同時に向こうから登ってくる車が視界に入った。


夜目にも明るい黄色のFD。


思わず視線がいってしまうが、啓介のほうはじっと前方を見つめたまま何事も無かったかのように傍を走り抜けていく。


「・・・・・・・・・・・・。」


以前もいちいちすれ違う度に視線を交わしていたわけではないが、それでもすれ違うたびにこっちを気にしているという感じは伝わってきていた。



なのに今は・・・・・、



「・・・・・・・・・ただの対向車ってことか。」


自分で呟いた言葉に今更ながら愕然とする。

分かっていたことなのに。
あの日、あの人にああ答えてしまった日から、こうなることは。



それでも、



あの人の目に映らなくなったということがこんなにも――――――辛い。




その時、ふと対向車のライトが視界に入った。


――――――――しまったっ!


慌てて大きく膨らんでいたラインを立て直す、が、一度崩れてしまったラインを立て直す為に大きくリアアイヤが縁石にぶち当たった。


――――――――っ!


派手な音を立てて大きく車体が揺れる。


「・・・・・・・・・やっちまった。」
ようやく止まった車内で、思わずハンドルに突っ伏す。
ぶつかった時の衝撃といい、おそらく足回りはいってしまっただろう。


――――――――何やってるんだろう


思わず自己嫌悪に陥る。
あの人はちゃんとDのドライバーとして以前と変わらずやっているというのに、こうして一人悩んでいることが馬鹿らしくなってくる。


それでも・・・・・・・どうしても考えずにはいられない。



――――――――俺は一体どうすればよかったんだ・・・・・・・・



望んでいたのはこんなことじゃなかったはずなのに。



(07.6.15)



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