When you lose it...  第3話




機材車に引かれながらやって来たハチロクを見て、緊迫した空気が辺りを包む。

「・・・・・・・・・一体どうして。」
「分かんねーけど、最近藤原何だかぼーっとしてたもんな。」

ボソボソと話し声が聞こえる中、拓海はただじっと下を見て俯いていた。


その時、ふとその話し声が止んだかと思うと同時に、ザッという足音とともに誰かが目の前に立ちはだかり、拓海はゆっくりと顔を上げた。


「りょ、すけさん・・・・。」
「これは一体どういうことだ?」
「・・・・・・・・・・すいません。」
「謝る必要はない。俺は原因を聞いているんだ。」
冷ややかな涼介の声に、思わず声が震える。
「・・・・・・すいません。俺、よそ見してて。対向車に気づかなくて、それで・・・」
「もういい。」

拓海の言葉を途中で切ると、涼介は瞳を細めた。

「そんなにやる気がないのなら、Dのメンバーからも出ていってもらおう。」
「・・・・・・・っ!」
「みんな真剣にやっているんだ。時間も労力も無駄にはしたくない。」
涼介のその言葉に、一斉に周囲がシーンとなる。
「すいませんでした・・・・・。」


そう言って、頭を下げた瞬間、ふとその背後にいる啓介と目が合った。 だがその視線はすぐさま外され、関係がないとでも言うようにそのまま踵を返して去っていった。




「・・・・・・・・・・・・・・。」




********************


ようやく騒ぎも落ち着き、隅のほうで一人座りこんでいる拓海を見つけると涼介は静かに歩み寄った。

「さっきは悪かったな。みんなの手前どうしてもああ言わなくてはいけなかったし、 そうするのが一番手っ取り早くあの場を納めれそうだったんでな。・・・・・・何かあったのか?」


そう言って拓海の横に腰を下ろすと、涼介は心配げに顔を覗きこんだ。


「・・・・・・・・どうすればいいのか分からないんです。」
「藤原?」
何だかいつもとは違う雰囲気を感じ取り、涼介は訝しんだ声を上げた。


目は一体どこを見ているのか、目の前にいる自分さえも見ていないように感じる。



「こんな風になりたかった訳じゃないんです。ただあの時はああするのが一番だと思ったから。」
「・・・・・・・・・。」

じっと地面を見つめながらどこか苦しそうに拓海が呟くのを、涼介はただ黙って聞いている。

「あの時もっと違う答えを言ってたら、そうしたらもっと違う今があったのかもしれない。でも・・・・・」


脳裏に浮かぶのは悲しそうに微笑する啓介の姿。


「もう、何も分からない!」

そう叫ぶと同時に、ふわりと温かい腕が伸びてきて、そっとその中に抱き込まれる。

「りょ、すけさん・・・?」

予想外のことに拓海の目が見開かれる。

「そう、あまり落ち込むな。」

涼介の優しい声がじんわりと胸に染みわたり、堪えていたものが溢れ出し目元をぬらした。



――――――――胸が痛い・・・



柔らかな胸に顔を預けて拓海は静かに目を閉じた。



――――――――俺は一体・・・・・・どうすればよかったんだ・・・・・?


+++++++++++++++++++++


缶コーヒーを2本片手に持ちながら啓介は目的の人物を探す為にキョロキョロと辺りを見回した。


つい先ほど、ハチロクを壊して泣きそうな表情を浮かべていた拓海。


あの弱みに付け込みそうな自分が嫌で、だから逃げるように場を離れたまではいいが、 結局心配になってこうして見に来てしまっている。



―――――――・・・・・・振られた相手にいつまでこだわってるんだか。



自嘲気味に笑いながら、キョロキョロと辺りを見回していると、ふと探していた人物が目に入った。
慌てて歩み寄ろうとしたが、ふとその傍に誰かいることに気がつき啓介は足を止めた。


――――――――藤原・・・?



と、兄貴?



どこか入り込めない雰囲気を感じてその光景をじっと見つめていると、すっと涼介の腕が拓海を包みこんだ。


「!」

驚きに目を瞠る啓介をよそに、拓海はその胸に顔を埋め、逃げようとする様子は見られない。



――――――――そういう、ことだったのか・・・・・



持っていた缶コーヒーをギリッと強く握り締めると、すばやく踵を返し荒っぽくドアを開けFDに乗り込む。


「あれ?啓介さん?どうしたんですか??もう帰るんですか??」
「・・・・・・・・・・・・。」


駆け寄ってきたケンタを無言で受け流し、エンジンを回す。

「啓介さん??」

いつもと違う様子に思わず首を傾げる。が、それすら無視して車を発進させる。


「一体どうしたんだ?」


猛スピードで山を下りていくFDのテールランプを見つめながらケンタは不思議そうに首を傾げた。




涼拓?違います啓拓です!

(07.6.19)


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