When you lose it...  第5話




『アニキにはカンケーねーだろ?!』


誰もいないリビングで一人ソファに座り込んでいた涼介の脳裏に啓介の言葉が蘇る。
藤原の様子から啓介と何かあったのだということは分かっていたが・・・


――――――――もしかするとこれは・・・・


しかし最後の『藤原とでも仲良くやってろよ!』という言葉から推測するに何やら誤解しているようだ。
別にやましいことなど何もないから話して誤解を解けばいいだけなのだが・・・・。


そう思うと同時にあの時の啓介の目が思い出される。


怒っているのでもなく、憎んでいるのでもなく、悲しさを押し殺したような、寂しい目――――・・・・・。
昔からああいう目をした時の啓介は恐ろしく手ごわかった。


「どうしたものかな・・・・・。」

誰にとも無くそう呟くと、涼介は天井を見上げ深く溜息をついた。


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「み、・・・くみ!!拓海っ!!おいクソガキ!!いつまで寝てるんだ!」
「んだよ、親父・・・折角今日仕事が休みなのに。」

下から聞こえて来た自分を呼ぶ声に、眠そうに瞼をこすりながらひょこりと拓海が階段から顔を出す。

「休みだからって怠けてんじゃねー。俺なんかお前と違って休みねぇんだぞ。それよりも暇なら配達の一つでもに行ってこい。」
「ちぇ・・・別にいいけどさ。どこにだよ?」
「高崎だ。」
「た、かさき・・・・?」
言われた言葉に拓海の目が見開かれる。

「どうかしたか?」

ピタリと固まってしまった拓海を訝しんで文太が声を上げる。

「別に・・・・なんもねぇけど。」


(何意識してるんだ、俺・・・・。)


別に高崎に行ったからってあの人に会うわけでもないのに・・・。 そう言い聞かせると、拓海はそばにあった配達するのだと思われる箱に手を伸ばした。

「これもって行けばいいんだな。」
「別にムリならいいんだぞ。」
「いいよ、行ってくる。」
いつもと様子の違う拓海を、隠しつつも心配げに見てくる文太にそう答えると、拓海はハチロクへと足を進めた。


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「おい啓介。俺少し喉渇いたから何か飲み物買いに行っていいか?」
「・・・・ん?あ、あぁいいぜ。じゃ、行くか。」
その言葉に、どこか遠くを見ながらぼおっとしていた啓介は我に返えると隅に止めてあったバイクにエンジンをかけた。

「ここからだと・・・・あそこのコンビニが近いな。行くぞ。」
「おう。」

そう言って、二台のバイクはそのまま道路を下っていった。


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その頃ハチロクは届けものも届け終わり、悠々と道路を走っていた。



―――――――やっぱり会わなかったな・・・・



そのことにほっとする反面、どこか寂しい気持ちがするのは気のせいだろうか。



―――――――まぁ会うほうが珍しいよな・・・・



拓海がそう思った瞬間、ふと反対車線を見慣れた姿が通りがかった。と、同時にその姿に拓海の目が見開かれる。


「今のって・・・・っ!」


乗っているものは見慣れぬ二輪だったけど、間違うはずもなくあの人だった。
思わずUターンをしそうになりブレーキに足を伸ばしかけたが、しかし拓海は足を止めた。



―――――――会ってどうするっていうんだ・・・・。



ミラー越しに遠くなっていく背をじっと見つめる。



―――――――何を話せばいいのかなんて分らないのに。



言い聞かせるようにそう呟くと、ふりきるようにアクセルを強めに踏む。



―――――――でも・・・・・・・・・



「っ!」
小さく舌打ちすると同時に拓海はブレーキを踏み込んだ。



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「おい卓也。俺先に外で待ってるからな。」
中にいる友人に声をかけて啓介は先に店を出た。


バイクに寄りかかりながら買ったばかりのタバコを開け、それに火を付けようとすると同時に、 誰かが目の前に立ちはだかり顔を上げた瞬間、そこにいた姿に啓介は息を呑んだ。


「何やってるんですかこんなところで。」
「ふ・・・・じ・・・・わら。」


呆然と目を見張る啓介から少し視線を外しながら、一気に喋る。

「何で最近練習に来ないんですか?聞いた話じゃ最近はFDにも乗ってないそうじゃないですか。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「どうしたんですか一体。」


そう言って初めて啓介に視線を合わせると、拓海は心配げにその双眸を覗き込む。


「涼介さんも心配してましたよ?」
「!」

その言葉にビクリと啓介の体が揺れる。


「・・・・が・・・・だろ。」
「え?」
「俺がどうしてようとお前にカンケーねーだろ?!!」
「っ!!!」

そう啓介が叫ぶと同時に、店内から先ほどの男がひょっこりと顔を出した。
「よー啓介待ったか?って・・・・知り合いか?」
「別に・・・・行くぞ。」
そう言って啓介は拓海のほうを一度も見ることなく踵を返した。
「え?あ、あぁ・・・。」
そんな様子にしばし目を白黒させた後、後から来た男は傍で固まっている 拓海を見ると、一瞬驚いたように目を見開いた後、さっと目を細めたが直ぐに何事 もなかったかのような表情に戻ると、そのまま啓介の後を追っていった。



あとには拓海一人が残された。


「関係ない、か・・・・・。」


一人ポツリと呟く。


その時、すっと一筋拓海の頬を雫が滑り落ちた。


「あれ・・・・っ。」


慌てて拭うが、一度溢れた涙は次から次へと湧いてくる。

「意味わかんねー・・・・・。」

そう言いつつも拓海はようやくこの痛みの正体が分ってきていた。



――――――何であの人に名前を呼ばれなくなったことがこんなにもツライいのか・・・・



――――――何であの人の目に映らなくなったことがこんなにもツライのか・・・・



――――――何であの日からこんなにもあの人のことばかり考えてしまうのか・・・・





「俺は・・・・・啓介さんのことが好きなんだ・・・・。」






ようやく!ようやくここまで来た!!!
でもまだまだ先は長いですよー。お付き合いしていただければ幸いです。
それにしても私は啓介の扱いがヒドィ・・・・こ、これから挽回していきますから!!(多分)


(07.7.9)


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