When you lose it...  第7話




「啓介さん」
「・・・・・・・・・どうした?」
背後から掛けられた声に、不機嫌そうに啓介が答える。
「何か啓介さん探している奴がいましたけど」
「・・・・・そいつどんな奴だった?」
「え?何だか大人しそうでボーっとしたまだガキみたいな顔した奴でしたよ」


――――――藤原か・・・・・?


なんでここにと、動揺しながらも口から出た言葉は、

「・・・・・・・いないって言っとけ」
「え、でも、」
「いーから、いないって言っとけ!」
「わ、分かりましたっ!」
怒鳴るように言われた言葉に、慌てて男は駆け出した。

「よ、啓介!」
「卓也」
ニコニコ笑みを浮かべながらやって来た友人に、視線を向ける。
「なぁ、今話してたのって、この前コンビニで会った奴のことだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
その言葉に押し黙る。
「ちらっとしか見なかったけどさ、あいつ・・・・・プロジェクトDの奴だよな。」
「卓也?」
ふといつもと違った友人の声に、不審げに顔を上げる。
「いや、お前が世話になってた奴なら礼の一つでも言っとくべきだったかなぁと思ってさ」
「何言ってんだよ」
「冗談だよ、冗談」
そう言うと、急に先ほどまでの笑みを消して、卓也はじっと啓介の方を見つめた。
「・・・・・・もう行かないよな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
何も答えない啓介に、気づかれないように卓也は小さく歯をギリッと噛み締めた。



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「ここにもいない・・・・・・。」
涼介に教えられた場所が書かれたメモをまた一つ黒く塗りつぶしていく。

あの後、電話が終わるなり家を飛び出し、メモを片手に啓介の居場所を探しているわけなのだが、依然として啓介の居場所は見つからないままだった。

既に日は傾き、家を出たときには青色だった空も、すっかりオレンジを通り越し、闇へと変わろうとしている。

教えられた場所はまだ半分以上残っているとはいえ、何の手がかりも見つからないということは、もしかすると、


「避けられてるってことなのか・・・・・・・」


自分で呟いた言葉に、悲しげに俯く。

その時、

「藤原?」
「りょ、すけさん・・・・・・・・。」
ふと頭上から降ってきた声に顔をあげ、そこにあった姿に目を見開く。
「今までずっと啓介を探していたのか?」
「・・・・・はい」
「それで、啓介には会えたのか?」
その言葉に緩く首を振る。
「・・・・・・・そうか。それなら家で待つか?」
優しく言われた言葉にジンと胸が熱くなり、思わず甘えたくなる。


――――――だけど・・・・


「いえ、まだ行ってないところがあるので、そこに行ってみます」


――――――自分から動くって決めたんだ・・・


「そうか・・・」
そんな拓海の姿に、ふわりと瞳を細めると、涼介はそっとその頭に手をやった。
「がんばれよ」
「はい」
ニッコリと笑いながらそう言うと、小さく礼をして側にあったハチロクに乗り込むと、次の場所へと向かった。



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P.M.11:45.

ガチャリという音とともに玄関から入ってきた人物に、涼介は声を掛けた。
「今日はどこに行っていたんだ?」
「・・・・・・・・・・アニキ」
その姿を目に留めるなり気まずそうに啓介の視線がそらされる。

「先に言っておくが、お前が何を勘違いしてるか知らないが、俺と藤原は何でもないぞ」
「?!」
突如言われた言葉に啓介の目が見開かれる。
「何言って・・・・・・だって、あの日・・・二人で抱き合ってたじゃねぇか!」
「あぁ、あれか。あれはお前にいじめられてしょげている藤原を俺が慰めていただけだ」
「・・・・・・・・・・・」
「お前が勘違いしているのは知っていたが、お前ら二人の問題だと思い、俺も極力首を突っ込まないようにしてきたが・・・・、 これ以上藤原を泣かせるようなら俺も黙ってはいられないな」
「泣かせるって・・・・俺は別に何もしてねぇよ」
「そうか?お前が知らないだけだろう?俺はお前のせいで泣いている藤原を何度も見たぞ」
「っ!」
「お前がもう藤原のことをどうでもいいというなら別に構わない。・・・俺が藤原をもらう」
「!!!!!何言って、」
さらりと言われた兄の言葉に、思わず怒鳴り声を上げる。
「何を怒ることがある?お前はもう藤原のことなんてどうでもいいんじゃないのか?」
「っ藤原は俺のだっ!!!!アニキにも誰にも渡さねぇ!!!!」
そう叫ぶと啓介は目の前の人物をギッっと睨みつけた。

緊迫した空気が流れる中、それを破るかのようにフッと小さく涼介は笑みを浮かべた。

「・・・・・・・・・最初からそう言えばいいんだ」
「え?」
「いや、なんでもない。それよりも藤原がお前のこと探してたぞ」
「・・・・・知ってる」
「会わなかったのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「全く。お前は・・・・」
呆れたように言う涼介に、啓介は拗ねたように視線を逸らした。
「だって・・・会って何言えばいいか分かんなかったんだよ。アニキがいるって分かってても会ったら何するか分かんなかったし・・・・・」
「ま、お前が一人でグチグチ悩むのは勝手だかな。多分藤原・・・・まだお前のこと探してるぞ」
「!」
ハッと啓介の目が見開く。
「さっき藤原に会った。あれは、お前を見つけるまでは帰らないと決めていたようだったぞ」
涼介がそう言い終わらない内に、勢いよく踵を返すと、啓介は再び外へ出て行った。


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「ここで、最後か・・・・・。」
メモをぎゅっと握り締めると、拓海は目の前に立ちはだかる建物をじっと見つめた。
ところどころ塗装の剥がれたそれは、既に使われなくなった倉庫のようだった。

ぎしっと、重たい鉄の扉を両手でゆっくりと開ける。

「あの・・・すみません・・・・。」

ガランとした室内に拓海の声が木霊する。


―――――誰もいないのか?


様子を探ろうと、キョロキョロと辺りを見渡しながら中へと足を進める。


その瞬間、


「んっ!!!!!!!!」


背後から急に伸びてきた手に口元を押さえられ、バタンっと扉が閉められるのを感じながら、拓海は意識を手放した。



次で終わります~!
結局啓介カッコイイ所見せずじまいで申し訳ないです・・・。

ら、ラストはきっと!!!!


(08.2.27)


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